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ルーヴル美術館展 日常を描く──風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄

2015年03月15日号

会期:2015/02/21~2015/06/01

国立新美術館[東京都]

ルーヴル美術館の厖大なコレクションのなかから、日常生活を描く風俗画を特集した展示。そもそも絵画とは「絵空事」というように、神や英雄など非日常的なイメージを現出させる装置だったから、風俗画は絵画のジャンルのなかでも地位が低く、またジャンルとして認められるのも遅かった(そのせいか、風俗画は英語で「ジャンル・ペインティング」という)。ここではまず「風俗画とはなにか」を知るために、プロローグとして日常的な情景が描かれた古代の墓碑や壷絵を紹介し、さらに歴史画、肖像画、風景画などを並べて絵画のジャンルについておさらいしている。なかなか啓蒙的な構成だ。肝腎の風俗画は時代順に並べると、16世紀のティツィアーノ、クエンティン・マセイス、ピーテル・ブリューゲル1世から、全盛期の17世紀のルーベンス、ル・ナン兄弟、レンブラント、デ・ホーホ、そしてフェルメールを経て、18世紀のヴァトー、シャルダン、ブーシェ、19世紀のドラクロワ、コロー、ミレーまでおよそ3世紀におよんでいる。そこに描かれているのは、金持ちも貧乏人もおおむねケチで下品でスケベなどうしようもない人間像だが、唯一の例外がフェルメールの《天文学者》だ。つーか、この天文学者が超俗してるというより、絵そのものが一段上の世界に属している感じ。まあ風俗画というなら、ルーヴルにあるもう1点のフェルメール、《レースを編む女性》のほうがふさわしいかも。ともあれ、これらの作品を「労働」「恋愛」「女性」といったテーマ別に展示しているのだが、なかでも興味深いのが最後の「アトリエの芸術家」で、絵を描く画家本人(サルが描いてるのもある)を自己言及的に描いた作品を集めているのだ。これも風俗画か。最後の最後は、開館間もないルーヴル美術館を描いたユベール・ロベールの《ルーヴル宮グランド・ギャラリーの改修計画、1798年頃》で終わってる。風俗画の最後というより、「ルーヴル美術館展」のシメですね。

2015/02/20(金)(村田真)

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