2017年11月15日号
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artscapeレビュー

渡部敏哉「THROUGH THE FROZEN WINDOW」

2015年05月15日号

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会期:2015/03/18~2015/04/19

POETIC SCAPE[東京都]

渡部敏哉は1996年12月に、友人とウラジオストックからシベリア鉄道経由でロンドンに向かう旅を企てる。結局、その真冬の鉄道の旅はヘルシンキで断念することになるのだが、シベリアを旅しながらその途上で撮影された写真群から、17点を選んで展示したのが今回の個展である。
写真の運命というのは不思議なもので、撮影されてすぐに発表されて脚光を浴びる場合もあるし、結局日の目を見ないこともある。今回の渡部の写真のように、20年近くたってはじめて展示されるというのは、かなり珍しい例ではないだろうか。写真を見ると、「寝かせていた」ことがとてもいい方向に働いたことがよくわかる。シベリア鉄道の旅が、若者たちの間でロマンチックな憧れとして語られていた時代は既に過ぎ去り、銀塩のモノクロームプリントもクラシックな印象を与えるものになっている。だがそのことが、イメージがじっくりと熟成して、いい味わいを醸し出すことにつながってきた。凍りついた窓越しに見る、寄る辺のない冬のシベリアの眺めは、渡部の個人的な体験というだけではなく、多くの人たちが自分の旅の経験を重ね合わせることができるものになってきているのだ。
渡部が前回のPOETIC SCAPEでの個展に出品したのは、原発事故によって立ち入り禁止になった故郷、福島県浪江町をカラー写真で撮影した「18 months」だった。今度の作品は、それとはまったく異なる印象を与えるものだが、逆に彼の写真家としての懐の深さを感じることができた。

2015/04/12(日)(飯沢耕太郎)

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