artscapeレビュー

上田義彦「A Life with Camera」

2015年05月15日号

会期:2015/04/10~2015/07/26

916[東京都]

日本の写真の最前線で活動している上田義彦にとって、回顧展というのはやや早すぎるような気もする。だが、それだけの厚みと量を備えた仕事をしてきたということが、今回の「A Life with Camera」を見てよくわかった。
それにしても、かなり破天荒な展示ではある。天井が高い916の会場全体を使って、いろいろなフレームに入れた約240点の写真がアトランダムに並んでいる。大きさ年代もバラバラ、これだけ盛りだくさんの展示も珍しいだろう。1982年、フリーの写真家としてスタートした24歳の時に撮影したモンテカルロバレエ団の写真から、近作まで、内容的にも技法的にも極端に引き裂かれた写真が一堂に会している。コマーシャルの仕事からプライヴェートなスナップまで、あらためて上田義彦という写真家の仕事の、幅の広さと志の高さがしっかりと伝わってきた。
これだけ多様な写真が並んでいると目移りがしてくる。それでも、上田のある意味特異な「眼差し」のあり方が浮かび上がってきた。彼自身が、展覧会のリーフレットに寄せた文章で書いているように「不器用」には違いない。それでもその都度、被写体に生真面目に向き合い、その時の自分の物の見方を問い直しつつ、ぎりぎりの所まで追い込んで、手抜きせずに作品を仕上げていく。そのために、時折、作品化への意欲が空回りしてしまうこともあるようだ。シャープネスの極致のような細部へのこだわり、厳密な画面構成が際だつ作品もあれば、光と大気の感触だけしか伝わってこないピンぼけの作品もあるのはそのためだろう。おそらく、その過剰な表現意識を自然体でコントロールできるようになった時に、上田の写真家としての文体が完全に確立するのではないだろうか。そのサンプルになりそうな作品(たとえばフランク・ロイド・ライトの落水荘の写真)を見ることができたのが収穫だった。
なお、展覧会にあわせて羽鳥書店から同名の写真集が刊行されている。装丁は中島秀樹。300点を超える作品をおさめた、文字通りの集大成となる大判ハードカバー写真集である。

2015/04/15(水)(飯沢耕太郎)

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