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artscapeレビュー

福岡陽子「本と物語、または時間の肖像」

2015年05月15日号

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会期:2015/04/20~2015/04/25

森岡書店[東京都]

本には、それ自体に写真の被写体としての独特の魅力があると思う。特に長い年月を経て現在まで残っている古書は、まさに「時間の肖像」とでもいえるような存在感を発しており、そこからさまざまな物語を引き出せそうな気がしてくる。福岡陽子は、ここ10年ほど古書店で洋書を扱う仕事をしており、次第にそれらを写真に撮ってみたいと思うようになった。2010年頃から17世紀~19世紀に出版された書籍を撮影しはじめる。その中から選んで、壁に10点、机の上に4点、ケースの中に1点展示したのが今回の個展である。
福岡のアプローチは、奇を衒ったものではなく、まず本をしっかりと観察し、細部に眼を凝らしつつ、その一部をクローズアップして提示している。そのことによって、革の表紙のほつれ、経年変化によって黄ばんだ紙、かすれた文字などが、あたかも生きもののような生々しさをともなって立ち上がってくる。それはまさに、本を「肖像」として撮影するという試みなのだが、そのプロセスが無理なく、自然体でおこなわれているように感じられるのは、彼女が長年古書を扱ってきたためだろう。いわば、それぞれの本を最も魅力的に見せる勘所のようなものを、正確に把握していることが伝わってきた。
会場構成で気になったのは、展示作品の上方の壁に、切り離された洋書のページが「鳥の群れ」のように貼り付けてあったことだ。アイディアは悪くないが、インスタレーションとしての精度を欠いているので、やや取ってつけたように見えてしまう。それと、そろそろ撮り方がパターン化しはじめているように思える。本というテーマには、まだまだ可能性があると思うので、違う方向からのアプローチも試みてほしい。

2015/04/21(火)(飯沢耕太郎)

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