2017年11月15日号
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artscapeレビュー

尾仲浩二「海町」

2015年05月15日号

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会期:2015/04/17~2015/05/30

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

「海町」は尾仲浩二が1990年代に八戸、宮古、釜石、陸前高田、気仙沼、石巻、塩竈、小名浜など、東北地方の太平洋岸を旅して撮影した写真をまとめたシリーズ。既に2011年にSUPER LABOから写真集として刊行されているが、あらためてプリントの形で展示された35点を見て、思いを新たにした。尾仲にとっても、重要なシリーズとして位置づけられていくのではないだろうか。
写真が撮影された1991~97年頃は、尾仲が最初の写真集『背高あわだち草』(蒼穹舎、1991年)と二番目の写真集『遠い町・DISTANCE』(mole、1996年)を刊行し、自分の写真撮影のスタイルを確立しようともがいていた時期だ。日本各地に旅を続け、目についた被写体にカメラを向け、シャッターを切っては次の場所に向かう。そんな「旅と移動の日々」の中から、一見さりげなく、穏やかに見えて、記憶に食い入るような強い喚起力を備えたスナップショットが生み出されていくことになる。この「海町」を見ても、写真に写っている街並にまつわりつく湿度や空気感が、皮膚にじわじわと浸透してくるように感じられた。
だが、このシリーズを見ていてどうしても強く意識してしまうのは、ここに写されている港町の景色が、今はほとんど失われてしまっているということだ。いうまでもなく、東日本大震災後の大津波によって、これらの街々は大きな被害を受けた。灯りがついたばかりの黄昏時の「呑ん兵衛横町」も、古い写真館も、「まや食堂」も、「スナックロマン」も、「大衆食堂ラッキーパーラー」も、おそらくもう残っていないだろう。それが尾仲の写真の中にそのままの姿で息づいていることに、あらためて大きな衝撃を受けた。「それはもう僕だけの旅の思い出だけではなくなっていることに気づいたのです」と、尾仲は写真展に寄せたテキストに記しているが、その感慨は彼だけではなく、写真を見るわれわれ一人ひとりが共有できるものになりつつあるように思える。

2015/04/22(水)(飯沢耕太郎)

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