artscapeレビュー

プレビュー:アラヤー・ラートチャムルーンスック展「NIRANAM 無名のものたち」

2015年05月15日号

会期:2015/05/18~2015/06/14

京都芸術センター[京都府]

タイ出身の映像・写真作家、アラヤー・ラートチャムルーンスックの作品で強烈に印象に残っているのが、安置された6体の遺体を前に、教師役に扮した彼女自身が死についてのレクチャーを行なう映像作品《クラス》。映像自体の衝撃もさることながら、「死」を未だ体験していない生者が、既に「死」の何たるかを知ってしまった(がゆえにそれについては語り得ない)死者に対して、「死」を語り聞かすという転倒した構造の中に、「共有不可能なものについて、それでもどう語ることが可能か」という真摯な問いがはらまれていたからだ。また、タイの農民たちに戸外で19世紀フランス名画の複製を鑑賞してもらい、自由に会話させた映像作品《ふたつの惑星》もそうだが、彼女の作品の重要な要素として、「コミュニケーションの(不)可能性」が挙げられるだろう。
本個展は、2014年5月~6月にかけて、京都芸術センターと京都市立芸術大学の連携によるアーティスト・イン・レジデンス事業で京都に滞在した際のリサーチに基づいている。京都芸術センターの植え込みに蚊帳でつくった仮設小屋、特別養護老人ホームや動物愛護センター、川沿いに住むホームレスの小屋などの場所で、撮影とインタビューを行なったという。小屋という場所の仮設性、人間・動物ともに死を待つ場所、この世自体が命の仮の宿り、生きてきた記憶を語ること、語りを通して他者と共有すること……さまざまなことをかき立てられる個展になるのではと期待している。

2015/04/27(月)(高嶋慈)

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