artscapeレビュー

寺田真由美「温湿シリーズ 視る眼差し×看る眼差し」

2015年11月15日号

会期:2015/10/13~2015/11/13

BASE GALLERY[東京都]

寺田真由美は2000年代に入って、ニューヨークを拠点として写真作品を制作しはじめ、日本ではBASE GALLERYを中心にコンスタントに発表を続けている。今回の「温湿シリーズ」も、これまでの作品と同様にミニチュアサイズの「部屋」を構築し、ライティングして撮影するという手法を使っているが、内容的には新たな領域に踏み込みはじめているようだ。
寺田の作品は「不在」というテーマをさまざまなシチュエーションで変奏しているのだが、あまりにも個人的な物語性が強くなりすぎると、やや空々しく思えてしまうこともあった。「温湿シリーズ」も英語の副題が「the view from someone lying in bed × someone else's view from the side」であることから見ると、ベッドの上に横たわって、外の「温室」を視ている人と、それを傍らで看ている人という物語が秘められているようだ。だが、それがあからさまではなく、むしろ植物(外)と部屋(内)、それを隔てつつ繋いでいる窓や扉という空間的な構造が強く打ち出されることで、見る者の記憶を引き出す装置としての作品のあり方が、より普遍性を持ち、明確になってきているのではないだろうか。
また、それぞれのプリントの色調をグレーから緑まで微妙に変化させたり、ピントが合っている部分をずらしたり、構図やライティングを変えたりする操作を、積極的におこなうことで、全体としては統一したトーンを保ちながらも、個々のプリントに変化をつけていることも見逃せない。1点だけ、他の作品とは違うテーマで展示されていた「two flower pots and window」という作品が、どこから来て、どんなふうに展開していくのか、そのあたりも気になるところだ。

2015/10/26(月)(飯沢耕太郎)

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