artscapeレビュー

高橋理子 展覧会「断絶から、連続を生む。」

2015年12月01日号

会期:2015/11/07~2015/11/30

ギャラリー9.5 ホテルアンテルーム京都[京都府]

円と線による独特な文様で知られる高橋理子の個展。黒、白、金、銀の4色で大小さまざまなサイズの水玉を染めた着物10点で構成される。作品を着せつけた、作家本人の姿を象ったマネキンはグッと口元を結んで仁王立ちに構え、力強い表情が印象的だ。シンプルで明快、それでいて強烈な個性が際立つ作品である。
「断絶から、連続を生む」という本展のテーマは、解説によると、「伝統的なるもの」を断ち、日本らしさ、日本文化のアイデンティティを継承するのだという。このテーマは本作の制作手法にも読み取ることができる。作品制作は、梅や菊、牡丹模様の既存の着物を解くことからはじまる。次に、バラバラになった各部をつなぎ合わせて一枚の布に戻し、そこから色を抜き、その上に水玉を配し、さらに黒い地色を染める。そして、縫い合わせて再び着物にする。一見それまでの着物としての素性を全く断ち切って生まれかわったかのようにみえるが、近寄って見ると、抜ききれなかった刺繍や箔、紋や地紋が残っているのがわかる。解体して染め直してもなお着物としての生命は繋がっていて、水玉文様があらたに表面に積み重なったのである。高橋によると、円と線はこれ以上削るところがない完璧なモチーフだという。その完璧さがあまりにもストレートで、もとの着物の奥に潜んでいた、言わずもがなの、なんとなく見せずにおいたものを、堂々と人目に曝してしまったかのような心許ない気持ちにおそわれる。
これを機会に高橋の活動を振り返ってみて、その幅の広さには驚かされた。着物や浴衣、手ぬぐいといった染織品だけでなく、インテリアやパッケージ等のプロダクトデザインも多数手掛けている。完璧なモチーフには、ただストレートなだけでなく、どのような支持体にも適応しつつも同時に個性を失わないという柔軟さがあるというわけだ。[平光睦子]


会場風景

2015/11/10(火)(SYNK)

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