2018年04月15日号
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artscapeレビュー

浜田浄の軌跡 ─重ねる、削る絵画─

2016年01月15日号

会期:2015/11/21~2016/02/07

練馬区立美術館[東京都]

浜田浄は1937年生まれの美術家。70年代半ばに版画作品で評価を高めたが、80年代になるとモノクロームの絵画に転じ、その後、平面に載せた絵の具や紙を削り出す作品も手がけている。本展は初期から近作まで47点の作品を展示したもの。作品の点数と大きさからすると、決して十分な空間とは言えないが、浜田の類い稀な抽象画を一覧するには絶好の機会であると言えよう。
そのもっとも大きな特徴は、抽象画でありながら、非常に強い身体性を醸し出している点である。キャンバスや合板などの支持体の上に絵の具や紙を堆積させたうえで、彫刻刀やカッターナイフなどで削り出す。すると画面には無数の痕跡が残されることになる。それらは朱色の漆器や夕陽が沈む大海原のような具象的な風景に見えないこともないが、それ以上に伝わってくるのは、浜田自身の削除という行為の反復性である。
しかも、そのような連続的な身体運動は無闇矢鱈に繰り広げられているわけではない。画面に残された痕跡を注意深く観察してみれば、それらがじつに入念に、計算高く、緻密にコントロールされながら彫り出されていることに気づくはずだ。つまり痕跡は、たんに平面との格闘という運動の例証としてだけではなく、平面を彩る、ある種の模様や陰影としても考えられている。浜田の作品は、その制作手法からすると、じつに彫刻的に見えるかもしれないが、その中心にあるのは、きわめて明瞭な絵画意識なのだ。
「抽象画」というジャンルを内側から破るほど強靭な身体性。再現的なイメージを無邪気に再生産しがちな現代絵画の底を、浜田浄の作品は強烈にえぐり出しているのである。白い紙を黒い鉛筆でただ塗りつぶす作品が世界を丸ごと闇に陥れる暴力性を示しているように、浜田浄は平面のパンクスなのかもしれない。

2015/11/28(土)(福住廉)

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