2018年09月15日号
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artscapeレビュー

森山大道『犬と網タイツ』

2016年01月15日号

発行所:月曜社

発行日:2015/10/10

『犬と網タイツ』というタイトルは、森山大道の記述によれば「つい先日、ふと池袋の路上でぼくの口をついて出てきたフレーズ」だという。たしかに写真集に限らず、本のタイトルなどがふと「口をついて出て」くることがある。考えに考えた末にひねり出したタイトルよりも、逆にそんな風にふっと降りてきたもののほうが、ぴったりと決まるというのもよくあることだ。
『犬と網タイツ』の「犬」というのは、いうまでもなく、森山の代名詞というべき名作「三沢の犬」(1971)のことだろう。そして「網タイツ」は彼が『写真時代』1987年5月号に掲載した、「下高井戸のタイツ」を踏まえているに違いない。そういえば森山には、のちに『続にっぽん劇場写真帖』(朝日ソノラマ、1978)として刊行された「東京・網目の世界」(銀座ニコンサロン、1977)という個展もあった。つまり『犬と網タイツ』というのは、森山が写真家として固執し続けているオブセッションの対象を、これ以上ないほど的確にさし示す言葉といえるのではないだろうか。
「昨年7月終わりから今年の3月末までの8カ月間、集中的に撮影したカット」から編集された写真集の内容も、最近の森山の仕事の中でも出色のものといえる。「全てタテ位置の写真(モノクローム)」のページ構成は、まさに森山の写真作法の総ざらいというべきもので、同時に「原点回帰」といいたくなるような初々しい緊張感を感じることができた。見ることと撮ることの歓びがシンクロし、弾むようなリズムで全編を一気に貫き通しているのだ。編集と装丁は月曜社を主宰する神林豊。それほど大判ではない、掌からはみ出るくらいの写真集の大きさもちょうどよかった。

2015/12/06(日)(飯沢耕太郎)

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