2018年01月15日号
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artscapeレビュー

松江泰治「LIM」

2016年01月15日号

会期:2015/11/28~2015/12/26

TARO NASU[東京都]

松江泰治の目の付け所はさすがとしか言いようがない。「構想10年」だそうだが、世界各地で「墓地」を撮るという素晴らしいアイディアを思いつき、それを完璧に形にしてみせた。ペルーの首都、リマ(「LIM」)で撮影された写真群を中核として、アジア、アフリカ、中近東、ヨーロッパなどに広がっていく作品を見ていると、彼がここで提起している「墓地こそが都市である」というテーゼが、これ以上ないほどの説得力を備えていることがよくわかる。
それにしても、死という不可避的でありながら不条理の極みというべき出来事を、人間たちがいかに手なずけ、社会化してきたかを見るうえで、墓地ほどふさわしい指標はほかにないのではないだろうか。半ば砂に埋もれた石塔のかけらが散らばるサハラの墓地、素っ気ない枕のような造形物が規則的に並ぶイスラム世界の墓地、あたかも人がそのまま暮らしていそうな外観の中南米の墓地等々、各地の墓地のあり方は、そのままそれぞれの土地の社会や歴史の縮小模型のようだ。松江の写真家としての力量と、近年、より柔らかなふくらみを感じさせるようになったカメラワークの冴えが見事に発揮された傑作だと思う。
ただTARO NASUでの展示は「LIM」シリーズから15点+映像作品のみなので(ほかに1990年代のモノクロームの風景作品が15点)、「要約版」という趣でやや物足りない。その全貌は、青幻舎から同時に刊行された同名の写真集で確かめていただくしかないだろう。こちらは、編集、デザイン(秋山伸+榊原ひかり/エディション・ノルト)ともしっかりと組み上げられていて、見応えがある。


《PUQ 141133》 ©TAIJI MATSUE Courtesy of TARO NASU

2015/12/08(火)(飯沢耕太郎)

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