2018年04月15日号
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artscapeレビュー

Rhizomatiks Research×ELEVENPLAY『border』

2016年01月15日号

会期:2015/12/04~2015/12/06

スパイラルホール[東京都]

観客はこの場では同時に出演者でもあって、ELEVENPLAYの女性ダンサーたちとともに、自動制御のWHILL(電動車椅子に似た乗り物)に乗って舞台空間を移動する。しかし、観客はその場を肉眼視することができない。観客の視界はヘッドマウントディスプレイで覆われ、耳もまたヘッドフォンで塞がれている。視覚と聴覚がその場のものではない「ヴァーチャル」な刺激によって自由を奪われ、そのシステムに支配されながら、衆人環視のなか(2階席から見下ろす態勢で、この舞台を眺めるもうひとかたまりの観客たちがいる)で観客は、孤独と恐怖にさいなまれる。まるでそれは「夢と魔法」というショックアブソーバーを欠いたディズニーランドのアトラクションのようで、観客の状態をここまで徹底的に操作する演出に、まず驚いた。孤独と恐怖にさいなまれながら、観客はまずダンサーの手招きに出会う。おそらく目の前のダンサーを見ているのだろう。しかし、ダンサーたちと彼女らが踊る空間のあり様はタイムロスなく過剰なエフェクトがかけられ、リアリティを欠いており、恐怖は一層掻き立てられる。ただし、この公演中もっとも刺激的であったのは、そうした「ヴァーチャルなもの」から生み出されたものではなかった。10分程度の上演のなかばあたりだったろうか、ダンサーたちが不意に観客の膝や肩、腕に手を触れてきたのだ。この接触は、「ヴァーチャルなもの」を「リアルなもの」とする感覚を生き始めた身体が、思い掛けず得体の知れないもの=「真にリアルなもの」に出会った瞬間だった。この接触にさらなる恐怖を得たともいえるし、肉体の復帰という安堵を得たともいえる、なんとも複雑な感情に満たされた。ダンスに格段の新味さはないとしても、こうしたアイディアを盛り込んでくるところにこのダンスインスタレーションの真摯な挑戦を感じた。観客に向けたアプローチこそ未来のダンスの可能性のひとつだ。そう確信させられた。


Rhizomatiks Research × ELEVENPLAY「border」

2015/12/06(日)(木村覚)

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