2018年07月15日号
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artscapeレビュー

杉浦非水・翠子展──同情(たましい)から生まれた絵画と歌

2016年01月15日号

会期:2015/10/24~2016/01/11

白根記念渋谷区郷土博物館・文学館[東京都]

杉浦非水の作品はもちろん何度も見たことがある。展覧会にも足を運んでいる。にもかかわらず、恥ずかしながら非水の人間的側面はほとんど知らなかった。なぜだろう。おそらく非水の仕事が個人の作品として評価されるばかりではなく、それらが余りにも時代を象徴しているがゆえに描かれた風景・人・ものと同時代の社会や文化との関わりで語られ、提示されることが多いからではないだろうか。地下鉄開通や三越のポスターなど、非水の名前を知らずとも見たことがある人はたくさんいるに違いない。という勉強不足の言い訳はさておき、本展はデザイナー・杉浦非水(1876~1965)と歌人・翠子(1885~1960)夫妻のふたりの世界に焦点を当てた展覧会。「同情」とは、非水が結婚前に翠子に宛てた手紙に書かれた言葉。明治35年12月24日には「僕は君の同情者君は僕の同情者互に同情の先端が相触れてこゝに誠の情焔が燃え上がりこゝに縁の火花が散る……」とある。なんと情熱的なことか。展示ではふたりの生い立ち、出会いと結婚からはじまり、図案家・非水と歌人・翠子のそれぞれの仕事、そして非水が装幀した翠子の歌集や小説、非水が画を描き翠子が短歌を認めた掛け軸や色紙などが紹介される。本展が渋谷区の郷土博物館で開催されたのは、非水・翠子夫妻が明治39年以来渋谷区に住んでいたから。残されている写真を見ると、夫妻がその作品でのみならず、自らがモダンな都市生活の実践者であったことがわかる。本展図録には解説解題、作品画像のみならず、夫妻が交わした書簡の書き下しも多数収録されており、基礎的な文献として充実の内容。非水の作品集の横に置いておこう。[新川徳彦]

2016/01/11(月)(SYNK)

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