artscapeレビュー

中澤岩太博士の美術工藝物語──東京・巴里・京都

2016年02月01日号

会期:2016/01/12~2016/02/27

京都工芸繊維大学 美術工芸資料館[京都府]

1902(明治35)年、京都高等工芸学校(現:京都工芸繊維大学)は、デザインの高等教育のため、国立の教育機関として三番目に設立された。美術工芸の近代化を図る地元の産業界の要望を受け、その創立を実現させたのが初代校長の中澤岩太(1858-1943)であった。本展は、工学博士/化学者・中澤の美術工芸に関わる業績を振り返る初めての展覧会。東京ではゴットフリート・ワグネルを補佐して窯業のほか多様な近代産業技術の革新に寄与、パリでは1900年の万博を実見し日本のデザインの刷新を図るべく、同校の教育用として西洋のデザイン資料の購入を浅井忠に依頼する。以後京都の美術工芸界では、図案と技法を研究しその成果発表の場を行なう四団体(京都四園)を立ち上げ、地場産業の活性化に貢献した。興味深いのは、デザイン教育で「科学と芸術の融合」を図った中澤自らも絵画・書・美術工芸を嗜む多才な人物であったこと。本展の見どころのひとつは、中澤自身の見応えある書画《宝珠》。同校の教員であった浅井忠や武田五一の作品に留まらず、彼の芸術家との交友関係(小山正太郎、松岡寿、富岡鉄斎)を示す資料も展示されている。さらに、中澤が率先して収集した西欧のアール・ヌーヴォーのデザイン(陶磁器・ポスター類)も多数あり、当時のデザイン改革に尽力した、中澤の熱き思いを感じることができる。[竹内有子]

2016/01/12(火)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00033615.json l 10119185

2016年02月01日号の
artscapeレビュー