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artscapeレビュー

伊澤絵里奈「そんな気がした」

2016年02月15日号

会期:2016/01/09~2016/01/31

SUNDAY[東京都]

伊澤絵里奈は2013年の第9回「1_WALL」展のファイナリスト、同じ年に東京工芸大学大学院を修了している。その時の作品《うつろに、溶け込んで》は、「私に最も近い存在」である「弟」を中心に撮影したスナップショットのシリーズだったが、その後「彼」ができたことで、被写体の幅が広がった。今回の東京・三宿のカフェ・レストラン「SUNDAY」のギャラリースペースでの初個展では、「弟」と「彼」の写真をあえて「混ぜこぜ」にするようにして展示していた。
基本的には、90年代以降の日本の女性写真家たちのお家芸とでもいうべき、身近な他者にカメラを向けた、軽やかな「プライヴェート・フォト」といえる。だが、被写体との距離をできる限り縮め、感情移入しつつ撮影していた90年代の女性写真家たちと比較すると、どこか違いが出てきているように感じる。「弟」も「彼」も。どちらかといえば突き放した素っ気ない撮り方であり、身体の部分(手、脚、首筋など)や身振りの細部を、じっと観察しているように見えてくるのだ。自分とは異質の「近くにいる奇妙な生きもの」の観察日記といえるかもしれない。この観察眼がもう少し研ぎ澄まされてくると、なかなかユニークな作品に育っていきそうだ。
今回の展示は、写真編集者・ライターの山内宏泰の企画による「provoke page.3」として開催された。新進写真家にスポットを当てて毎月開催されている連続展で、これまで天野祐子、 田菜月が展示し、次回は山崎雄策展が予定されている。場所がややわかりにくいのが難だが、ゆったりとしたいい展示スペースなので、長く続くことを期待したい。

2016/01/10(日)(飯沢耕太郎)

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