2018年07月15日号
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artscapeレビュー

森永純「WAVE」

2016年03月15日号

会期:2016/02/03~2016/04/16

gallery bauhaus[東京都]

寄せては返す波をずっと見ていると、次第にトリップ状態に入っていくことがある。単調なように見えて、一つひとつの波の形や変化の仕方には微妙な違いがあり、その表面で起きる出来事はひとつとして同じものはない。波の繰り返しに身を任せていると、自分がどこにいて何をしているのか、目眩とともに足下から揺らいでくるような気分になるのだ。
森永純も「ある年の5月」に、千葉の海岸に撮影行って防波堤に打ち寄せる波を見ているうちに、そんな状態に陥っていったようだ。「太陽熱と心地よい波の揺れのせいで軽い幻覚が起こり、波面が凍結したように見えた」という。この体験をきっかけとして、彼は30年以上にわたって波を撮り続けることになる。それらは2014年に写真集『WAVE~All things change~』(かぜたび舎)にまとめられ、今回はその中から44点(ほかに「河─累影」シリーズから2点)が展示された。
それら、撮影当時にプリントされたというヴィンテージ・プリントを見ると、波という現象が実に魅力的な被写体であることがわかる。撮影の条件によって千変万化するその様相は、それぞれが驚きをともなう奇跡的な瞬間として凝結しており、見飽きるということがないのだ。さらにそれらが繊細で深みのあるモノクロームの印画に置き換えられることで、視覚的な歓びはさらに強まってくる。森永が『WAVE~All things change~』に「「海の波」ほど、私たちの脳でおこる夢に似て、リアリティと幻想の交錯が激しい世界はない」と書いているのは本当だと思う。印画紙に定着された波は、われわれを夢想へと誘う強い力を秘めているのだろう。

2016/02/16(火)(飯沢耕太郎)

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