2018年10月15日号
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artscapeレビュー

金川晋吾『father』

2016年03月15日号

発行所:青幻舎

発行日:2016年2月18日

何とも形容に困る、絶句してしまうような写真集だ。金川晋吾は、サラ金で借金を作っては「蒸発」を繰り返す父とその周辺の状況を、2008~09年にかけて撮影した。それらの写真群が写真集の前半部におさめられ、同時期に金川が執筆した「日記」をあいだにはさんで、後半部には「毎日自分の顔を一枚と、写す対象は何でもいいので何か一枚」撮るようにと父に指示して撮影してもらった「自撮り写真」1000枚以上が収録されている。
金川が、なぜ父の写真を撮り始め(撮ってもらい)、このような写真集にまとめたのか、その動機の明確な説明はない。だが、写真撮影を通じて、人間存在の不可解なありようを解きほぐし、見つめ直そうという強い意志を感じとることができる。否応なしに始まった写真撮影の行為が、次第に確信的になっていくプロセスが、ありありと浮かび上がってくるのだ。特に、父が撮影した「自撮り写真」を見ていると、それらが何とも言いようのない力を発していて、じわじわと見えない糸に絡めとられていくような気がしてくる。ほとんど無表情で、カメラを見つめる中年男の顔、顔、顔の羅列は、写真を撮るという行為にまつわりつく「怖さ」(同時に奇妙な快感)を、そのまま体現しているように思える。気になるのは現在の父との関係だが、そのあたりをフォローした新作の発表も期待したい。
なお、作者の金川晋吾は1981年京都生まれ。神戸大学発達科学部卒業後、東京藝術大学大学院美術研究科(先端芸術表現専攻)で学んだ。本作が最初の本格的な写真集になる。

2016/02/23(水)(飯沢耕太郎)

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