2018年10月15日号
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artscapeレビュー

松本雄吉×林慎一郎「PORTAL」

2016年04月15日号

会期:2016/03/12~2016/03/13

ロームシアター京都 サウスホール[京都府]

「KYOTO EXPERIMENT 2016 SPRING」公式プログラム観劇4本目。
大阪の「衛星都市」である豊中に暮らす林慎一郎が、豊中の街に取材して書いた脚本を、維新派の松本雄吉が演出。空間の奥行や配置が瞬時に入れ替わる舞台転換、光と影の幻想的な世界を立ち上げる照明、リアルタイム/バーチャルな仮想世界を投影する映像、といった舞台演出が圧巻。また、ヒップホップユニット・降神のMCである志人が繰り出すラップ調の台詞の疾走感、韻を踏んだリズミカルな文体に加え、要所要所で「コロス」としてリズミカルな発話と身振りを同調させた俳優たちがアクセントを打ち、音楽劇の様相を呈している。
舞台は、古い市街地とニュータウンに分断され、国道に沿ってどこまでも膨張を続ける郊外都市の姿を、さまざまな人物の点描的なシーンを積み重ねて描いていく。老朽化した「文化住宅」に住む孤独な男、所在なげな主婦、シネコンの親子連れ、道路交通情報を伝えるアナウンサー、国道をバイクで疾走する女、学習塾の教師たち、シャッター商店街、地図作成業者、スマホのGoogleマップを使用して現実の市街地を舞台にプレイする拡張現実陣取りゲーム「ingress」のプレーヤーたち(エージェント)、……。カビの生えたような文化住宅に住む男は、変質者の隣人や在日外国人への嫌悪をあらわにし、飛行機が街の上空を通り過ぎるとき、爆音で聴こえない街に向かって叫ぶ。「お前ら、この街と一緒に腐っちまえ」。閉塞感に覆われた街に穴を爆破し、出口をつくりたいという男の妄想は、壁に穴を開けて空間を飛び越えるパズルゲーム「PORTAL」や「ingress」に興じる人々へとリンクする。一方、街を歩きまわる地図作成業者にとっての「100万分の1」「5万分の1」といった地図の縮尺は、新装開店したパチンコ店内に流れるMCがうたう「勝敗の確率」へとスライドされる。この「パチンコの玉」は、孤独な男が妄想の中で撃つ銃弾とのダブルイメージを形成する。また、男が妄想の中で街に穿つ「穴」は、ある夫婦が興じる「福笑い」や、のっぺらぼうの体に7つの「穴」を開けてやったら死んでしまったという中国の神様「渾沌」の神話ともリンクし、街全体が巨大な「顔」「人格」をもつ、壮大な「創世記」の神話的ビジョンへと結実する。
シーンの点描をつなぐ、いくつものメタファーやダブルイメージを鮮やかに駆使することで、現実/仮想、住人/通過者、地上/俯瞰、ミクロ/マクロのさまざまな視点が交錯し、現実の地図の上に、架空の地図や記憶の中の地図が重層的に重ね合わせられていく。舞台装置は、スケール感や抽象度の変化に応じて、複数の相を見せて展開する。碁盤目状のグリッドが刻まれた床面と、中央を稲妻のようにジグザグに横切る線。それは、国道や川といった具体物を表象するとともに、文化住宅が象徴する旧市街地/スタバやシネコンのあるニュータウンとの境界、現実と仮想空間との境界を示す。ミクロな日常の世界が壮大な宇宙や神話的世界と結びつき、街の膨張が宇宙の膨張と重ね合わせられていく終盤、居場所を求めてさ迷う人々の中にあって、「おかえり」と夫を出迎える妻の描写にはやや時代錯誤を感じたが、日常の肯定が根底にあるのだろう。疾走感あふれる台詞、音楽的な発話、イメージの多重露光的な重ね合わせによって、観劇後、現実の街の見え方を変えさせるパワーを放っていた。


松本雄吉×林慎一郎「PORTAL」
Photo: Yoshikazu Inoue

2016/03/13(日)(高嶋慈)

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