artscapeレビュー

津田直「Grassland Tears」

2016年04月15日号

会期:2016/02/20~2016/03/26

タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]

津田直が東日本大震災前から東北地方を中心に撮り続けている「縄文文化」の写真群には、以前から注目している。僕のキュレーションで2012年から海外を巡回している「東北─風土・人・くらし」展(国際交流基金主催)にも、出品作家の一人として加わってもらった。今回の「Grassland Tears」(草むらの涙)は、その中間報告といった趣の展示で、風景作品4点、縄文時代の出土品を撮影した写真10点が並んでいた。
「Isedotai Site」(2012)、「Kitatogane#1」(2016)、「Ayoro#1」(同)といった風景作品を見ると、歩き回りながら「ここしかない」という場所を嗅ぎ当て、風景のなかに埋め込まれた縄文時代の痕跡を定着していく津田のアンテナの精度の高さにあらためて驚かされる。出土品の写真をあえてネガプリントで出力し、「反転した世界」を出現させることで、「形ある霊魂」に迫ろうとする試みも興味深い。ただ、このシリーズの全貌を見せるためには、さらに大がかりなインスタレーションの展示が必要なはずで、その機会ができるだけ早く来ることを願いたいものだ。
やや気になるのは、このところの津田の展示が、どこか集中力を欠いて、エネルギーを小出しにしている印象を受けることだ。ライトジェット・プリントの画質も、やや弱々しく感じてしまう。近作の写真集にしても、かつての『SMOKE LINE』(赤々舎、2008)のような圧倒的な強度が失われている。もう一度、写真家としての飛躍を期す時期が来ているのではないだろうか。

2016/03/03(木)(飯沢耕太郎)

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