artscapeレビュー

野村佐紀子「もうひとつの黒闇」

2016年04月15日号

会期:2016/02/26~2016/03/13

Akio Nagasawa Gallery[東京都]

野村佐紀子は2008年に同じAkio Nagasawa Galleryで個展「黒闇」を開催した(同名の写真集も刊行)。今回展示された「もうひとつの黒闇」のシリーズは、その「黒闇」の写真群に、ソラリゼーションを施して再プリントしたものだ。マン・レイが好んで用いたソラリゼーションの技法は、暗室作業中にフィルムや印画紙に過度の露光を与えることで、画像の一部の白黒を反転させるともに、光が滲みだすような効果を生み出す。だが、野村のソラリゼーションはより極端なもので、画像はほとんど黒一色となり、目を凝らすとようやく被写体の輪郭のラインが浮かび上がってくる。もともと野村の写真は、闇の中に溶け込んでいくような表現に特徴があったのだが、それがより強化され、写真とグラフィックのぎりぎりの境界領域が模索されているのだ。
野村はこのところ表現の幅を大きく広げつつあるが、この実験作もその一環として捉えていいのではないだろうか。そういえば、彼女の師匠の荒木経惟も、かつて高温現像のネガによるプリントのなどを試みたことがあった。写真表現の振り幅をどれだけ広げられるかという課題を、野村もまた荒木とは違った方向に展開しつつあるということだろう。なお、本作は昨年アルル国際写真フェスティバルで開催された「もう一つの言葉 8 Japanese Photographers」展(キュレーション:サイモン・ベーカー)に、森山大道、深瀬昌久、深瀬昌久、猪瀬光、横田大輔らの作品とともに出品された。また、展覧会にあわせて600部限定の写真集『Another Black Darkness』(Akio Nagasawa Publishing)が刊行されている。

2016/03/03(木)(飯沢耕太郎)

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