2018年04月15日号
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artscapeレビュー

ひらいゆう写真展「休眠メモリー」

2016年05月15日号

会期:2016/04/19~2016/05/01

アートスペース虹[京都府]

フランス在住の写真家、ひらいゆうの個展。鮮烈にして夢幻的な色彩のなかに、悪夢と現実の輪郭が溶解したような光景が出現する。「マダムアクション」のシリーズは、男児向けのマッチョな男性フィギュア(アクションマン)に化粧を施して「女装」させ、フォーカスをぼかして接写することで、生きた人間のポートレートのように写し取った写真作品である。カーニバルの仮装やドラァグ・クイーンのように見える彼ら/彼女らは、儚くも妖しい美しさをたたえている。一方、風景写真のシリーズ「BLUEs」では、夜明けとも黄昏ともつかない、薄明のブルーが浸透した世界を、ライトの人工的な灯が照らし出す。ブルー/赤やオレンジという色彩の対比のなかに、夜/昼、夢や記憶のなかの光景/現実の風景、人形/人間、男/女、といういくつもの境界が揺らぎ合う。とりわけ、印象的な「赤」という色は、血や内臓など生々しい生理的感覚を呼び起こすとともに、網膜内の残像として感じる光のように、非実体的な浮遊感を帯びている。
また、ベルギーのモンスという、第一次世界大戦の戦禍を受けた街で撮影した映像作品も出品されている。暮れゆく、あるいは明けていく空。記憶のなかの闇を照らす象徴のようなロウソクに、顔の見えない兵士の写真がオーバーラップする。墓石の立ち並ぶ墓地の光景。威嚇するような表情の、サルの剥製の頭部。その両目のイメージは、車のヘッドライトと思しき二つの円と重なり、地面に散った無数の花びらへと連鎖していく。圧縮され重なり合った時間と、反復され引き伸ばされた時間。不可解な夢やフラッシュバックのような映像の連なりのなか、覚醒したいくつもの「目」が、闇や夢のなかからこちらを眼差していた。

2016/04/23(土)(高嶋慈)

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