2018年04月15日号
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artscapeレビュー

アピチャッポン・ウィーラセタクン「光りの墓」

2016年05月15日号

会期:2016/04/09~2016/05/06

テアトル梅田[大阪府]

タイの映画監督・映像作家、アピチャッポン・ウィーラセタクンの最新作。出身地であるタイ東北部イサーンを舞台に、寓話めいた物語が緩やかに進行し、政治批判の暗喩と、光と風にあふれた穏やかな詩情が共存する。
廃校になった学校を改装した病院に、原因不明の「眠り病」にかかった兵士たちが収容されている。事故で足に障害を抱え、松葉杖をついた中年女性のジェンが、ボランティアで兵士たちの世話をしている。窓の外の元校庭では、軍の管理下でショベルカーが地面を掘り返している。病室には、「アフガン帰還兵にも効果があった」と医師が説明する奇妙な柱状のライトが運び込まれ、緑、赤、ブルー、ピンクと幻想的に色を変える光が、植物状態で昏睡する兵士たちの治癒にあたる。しかしSF的な装置の傍らでは、死者の霊や他人の夢と交信できる霊的な世界が広がっている。ジェンの前に現われた2人の若い女性は、自分たちは古いお堂に祀られている王女であると言い、「病院の下には古代の王たちの墓があり、彼らは眠る兵士たちの生気を吸い取って今も戦い続けている」と告げる。そして、ジェンが息子のように世話する若い兵士イットは、死者の魂と交信できる女性の身体に眠りのなかで入り込み、彼女の身体を媒介として、かつての王宮の豪華な室内へと案内する。しかし、そこは破壊された偶像が横たわるだけの林であり、何もない空虚が広がっている……。
(元)学校、病院、軍隊というラインは、「規律化され集団的に管理される身体」を強く意識させる。過去の栄華の痕跡もない、「不在の王宮」の虚構性。冗談めかして「スパイじゃないの?」と口にする人々。映画館では、国王をたたえる歌と映像が流れる際に人々は起立するが、スクリーンには何も映らない。これらは、タイの政治的現状への批判を示唆する。治療に用いられる光と、映画館で人々が見つめる光。兵士たちの「眠り病」は、現実からの逃避や感覚の麻痺を思わせるが、それは逃走であり闘争でもある。兵士イットは、身体と意識を何者かに拘束されつつも、夢のなかで意識を自由に飛ばし、傷ついた孤独な者に癒しと覚醒の方法を授けることができる。しかし、見開かれて虚空を凝視する目は、戦慄的な覚醒とも、魂を抜かれた半睡状態ともつかない。軍のショベルカーは、地面を掘り返しているのか、何かを埋めて隠蔽しようとしているのか。「目覚めたい」というジェンに、「僕は眠っていたい」と答えるイット。夢の中と現実、重なり合わない世界にそれぞれ生きる2人は、シャーマンの身体を媒介にしないとつながることができない。世界は至るところで傷と綻びに満ちているが、だからこそ同じくらい深い恩寵で満たされてもいる。

2016/04/27(水)(高嶋慈)

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