2018年10月15日号
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artscapeレビュー

中居裕恭「北斗の街──遡上の光景」

2016年05月15日号

会期:2016/04/05~2016/09/25

三沢市寺山修司記念館エキジビットホール/短歌の径[青森県]

2016年2月17日に60歳で急逝した中居裕恭の遺作展が、青森県三沢市の寺山修司記念館で開催された。中居は1955年、青森県八戸市生まれ。1976年にワークショップ写真学校の細江英公教室で学び、その後、森山大道や北島敬三が所属していたギャラリー、CAMPの活動に参加する。八戸に帰郷してからは、ギャラリー北点を主宰し、写真集としては『北斗の街──遡上の光景』(IPC、1991)、『残りの花』(ワイズ出版、2000)を刊行した。じつは寺山修司記念館で森山大道との二人展を開催する予定があり、準備を進めていた矢先の突然の死だったという。本展の作品セレクト・構成は、その遺志を受け継いで、森山自身の手によっておこなわれた。
ぬめぬめと照り輝くような黒みを帯びたプリント、内から滲み出るような鈍い光を発するモノや人間たち、ざっくりと大づかみに切り取られた殺気を孕んだ路上の眺め──たしかに森山大道の強い影響力が刻みつけられてはいるが、そこには北方志向とでも言うべき骨太な写真表現が、確実に根を張り、大きく育ちつつあった。森山が「単純な郷土愛じゃなく、もっと広い視野に立つと見えてくるものを求め続けた写真家だった」というコメントを寄せているが、まったくその通りだと思う。
そして、その「広い視野」が、よりくっきりとあらわれていたのは、記念館の外の松林を抜けて寺山修司の文学碑に続く「短歌の径」に、パネル貼りで野外展示された12点の写真群だった。小川原湖を望む、広々とした風景のなかで、あらためてそれらの作品を見直すと、中居があたかも事物や風景の呼吸に合わせて、深々と、抱き寄せるようにシャッターを切っているさまが、ありありと見えてきたのだ。今回展示されたのは「北斗の街──遡上の光景」のシリーズだけだったのだが、その後の彼の写真家としての歩みを辿るような写真展も、ぜひ実現してほしいものだ。

2016/04/10(日)(飯沢耕太郎)

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