2018年06月15日号
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artscapeレビュー

渡辺兼人「PARERGON」

2016年05月15日号

会期:2016/04/11~2016/04/30

GALLERY mestalla[東京都]

本展のタイトルの「PARERGON(パレルゴン)」というのは、美術作品における「外、付随的なもの、二次的なもの」を表わす言葉。カントは絵の額縁や建築の列柱のようなそれらを、美術にとって非本質なものとみなしたが、デリダは本質的、非本質的という二分法そのものを脱構築すべきであると主張した。渡辺がなぜこの言葉をタイトルに用いたのかは不明だが、「写真至上主義者」である彼のことだから、写真における「PARERGON」を問い直そうという意図があることは明らかだろう。むしろ、写真表現の本質がどの辺りにあるのかを、逆説的に浮かび上がらせようとしているのではないだろうか。
会場に展示されている14点は、6×9判のカメラで撮影された縦位置の路上の光景で、すべて18×22インチのサイズに引き伸ばされている。写っているのはアスファルトで舗装されたあまり広くない道で、左右と奥には建物が並んでいる。どうやら雨上がりの場面が多いようで、歩道が黒々と濡れている写真が目につく。いつもよりはやや濃い調子で、黒みを強調してプリントしているように見える。
渡辺の写真は、いつでも何の変哲もない光景に見えて、見続けているうちに魔術的と言えそうな写真空間に誘い込まれていくように感じる。それを「PARERGON」を削ぎ落とした、純粋で本質的な写真の経験と言いたくなるのだが、「外、付随的なもの、二次的なもの」を欠いた「純粋写真」が、実際に成立するのかといえば疑問が残る。とはいえ、渡辺もそのことは承知の上で、写真撮影・プリントの行為を積み重ねつつ、「PARERGON」とその対立概念である「ERGON」の戯れに身をまかせようとしているのではないだろうか。

2016/04/13(水)(飯沢耕太郎)

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