2018年04月15日号
次回5月15日更新予定

artscapeレビュー

まぼろしの紙幣 横浜正金銀行券 ──横浜正金銀行貨幣紙幣コレクションの全貌──

2016年06月01日号

会期:2016/04/23~2016/05/29

神奈川県立歴史博物館[神奈川県]

横浜正金銀行は、貿易為替業務を主目的に1880年(明治13年)2月に開業した。当初欧米との外国貿易為替業務を展開していたが、日清戦争(1894年/明治27年)以降日本と中国の貿易取引が増大したことに対応して対中国業務を進めてゆく。そうしたなかで商取引を円滑に進めるために横浜正金銀行が中国大陸の9支店で発行した銀行券が本展で「まぼろしの紙幣」として紹介される横浜正金銀行券だ。「まぼろし」とされる理由は、この銀行券が1902年(明治35年)から30年あまりのあいだのみしか流通せず、朝鮮銀行券、満州中央銀行券にとって代わられ、ほとんどが回収、焼却処分されたため。横浜正金銀行本店の建物を継承する神奈川県立歴史博物館が2006年に東京三菱銀行(当時)から寄贈を受けた旧横浜正金銀行関連資料にこれらの紙幣が含まれており、今回の展覧会はその全貌を公開する初めての機会だという。


展示風景

中国大陸の9支店で合計90種が発行されたとされる横浜正金銀行券のうち、神奈川県立歴史博物館が所蔵するのは87種184枚。流通紙幣1枚を除くすべてが見本券で、「見本」等の文字が加刷されていたり、穴が開けられている。これらは各支店に配布されて贋造券の鑑定に用いるために作られたものだという。デザインは金種と兌換対象となる貨幣の本位ごとに違い、また発行した支店によって表記されている文字が異なる。87種のうち47種に双龍がデザインされ(図版1)、また31種に正金銀行本店ファサードの画像がデザインされている(図版2)。本展の企画を担当した寺嵜弘康・神奈川県立博物館学芸部長によれば、これらの紙幣の抄紙・デザイン・印刷はすべて印刷局が行ない、正金銀行側からはデザインについての注文はほとんどなかったという。



左:図版1「横浜正金銀行牛荘支店銀両券100両」(1902/明治35年7月)
右:図版2「横浜正金銀行大連支店金券1円」(1913/大正2年10月)
図版は神奈川県立歴史博物館提供

本展のチラシやチケットのデザインには、これらまぼろしの横浜正金銀行券に使われていた彩紋や図案から採集した文様があしらわれている。古い紙幣にありそうな染みまで表現した凝ったデザイン。また図録は展示では片面しか見ることができなかった正金銀行券87種の表裏の図版を原寸大で収録したマニアックなもの。しかも通常の網点による印刷ではなく高精細印刷だ。図版をルーペで見ると、細かな彩紋、マイクロ文字ばかりではなく、紙の折り目、破れ目まではっきりと再現されていることに驚く(オークションに出る紙幣の真贋鑑定にも使えるのではないだろうか)。各紙幣の詳細データも掲載されており、資料的価値も高い。
本展では横浜正金銀行券のほかに、正金調査部資料、元行員から寄贈された資料、正金銀行と1946年(昭和21年)に業務を引き継いだ東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)が鑑定業務のために蒐集した世界のコインが並ぶ。いずれも普段は非公開の貴重なコレクションだ。
なお、神奈川県立歴史博物館は本展終了後、5月30日から空調設備改修のために全館休館となる。再オープンは2018年春を予定しているとのことだ。[新川徳彦]

2016/05/17(火)(SYNK)

2016年06月01日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ