2017年12月15日号
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artscapeレビュー

鈴木理策写真展「意識の流れ」

2016年08月15日号

会期:2016/04/16~2016/06/26

田辺市立美術館[和歌山県]

「Sakura」、「Étude」、「White」、「海と山のあいだ」の4つのシリーズで構成される本展。昨年、東京オペラシティアートギャラリーで開催された同名の個展を筆者は見ているが、本展では出品数を絞り、最新シリーズ「水鏡」は分館の熊野古道なかへち美術館に分けて展示することで、写真家のエッセンスをより凝縮して感じることができた。
とりわけ「Sakura」シリーズに顕著にみられる特徴が、浅い被写界深度とピントの操作による遠近感の撹乱と視覚的酩酊である。空間的には手前にある桜の花は曖昧にボケた白い色面となって浮遊し、ピントの合った遠くの枝は細部まで鮮明に像を結ぶため、むしろ手前に突出して見えてくる。そうした作品の構造を動的に提示しているのが、雪の結晶を捉えた映像作品《Sekka》である。水槽のような箱型のモニターをのぞき込むと、限定された狭い視野、ピント面の操作によって、結晶の像はクリアな輪郭を結んだかと思うと、たちまち溶けだすように曖昧にぼやけていく。水面を模したモニター面のさらに奥に、仮構的な透明の面が無数に存在するかのような深遠が錯覚される。
また、「White」シリーズでは、雪の「白さ」はその極点で印画紙の滑らかな表面の地色と溶け合って同化し、意味と物質の境界は弁別不可能になる。
一方、「海と山のあいだ」シリーズが展示された一室では、海辺から岩場、深い木々の間に顔をのぞかせる池などを写した写真群が、視覚的変奏をもたらすように配置されている。それは空間的、時間的な連続性ではなく、写真の視覚における連続性である。穏やかな波を縁どるキラキラとした光の粒は、淡くぼやけた白い円の重なりとなって浮遊し、円のイメージは森の中の池の波紋と共鳴し、浜辺に打ち寄せる波の曲線と響き合い、太い木の根や岩場の洞窟に開いた暗い穴へと姿を変えた後、その極点で日輪として出現する。そして再び、波に反射する無数の光の粒へと拡散していく。一部屋をぐるりと一周して連鎖的に展開し、クライマックスで闇から光への転調を迎えながら、円環状の完結へ。音楽にも似た連鎖と変奏が空間を満たしていた。

2016/06/25(土)(高嶋慈)

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