artscapeレビュー

林勇気 個展「Image data」

2016年08月15日号

会期:2016/06/25~2016/07/30

ギャラリーヤマキファインアート[兵庫県]

ここ半年間、個展・グループ展への参加が相次ぎ、精力的に新作を発表している林勇気。最新作《image data》が展示された個展は、デジタルデータとしての映像の成立条件や非物質性、受容や消費のあり方に対する意識をより先鋭化させたものとなった。
冒頭、壁面いっぱいに投影された映像には、海辺、花畑、バーベキュー、ドッグフードのパッケージ、パスタ、飲食店、公園、ビルや雑踏など、ごく平凡で、アマチュアが撮影したと思しき写真が、脈絡は不明なまま、一枚ずつ映される。すると画像は無数の小さな四辺形に切り取られ、回転ドアのようにクルクルと回転し始める。x軸(横軸)とy軸(縦軸)の平面上にのみ存在するデジタル画像に、架空の奥行(z軸)を与えて、それぞれ異なる回転速度を与えて回転させると、どんなアニメーションが生成するだろうか。目をチカチカさせるような黒い穴の点滅によって、デジタル画像は物質的な厚みも奥行きも一切持たないことが露呈する。やがて、それぞれの画像は切り抜かれた無数の断片に分解し、混ざり合い、見えない中心軸の周りを高速で旋回し始める。ブラックホールを連想させる宇宙的な光景とその終焉は、匿名的な画像が日々膨大に生み出され、ネットを介して共有され、消費されていく巨大な墓場を思わせる。
このように、デジカメや携帯電話で手軽に撮影されたデジタル画像の受容や消費のあり方についての意識は、作中で使用された画像の選択方法にも明らかだ。ここでは、インターネットの画像検索において、「イメージの誤訳」として表示された「エラー」画像を順番に拾い上げていくという「エラーしりとり」の手法が採られている(例えば、検索ワードに「犬」と打ち込んで、機械的な誤訳で表示された「ドッグフード」の画像を見つけると、次は「ドッグフード」と打ち込み、紛れ込んだ「パスタ」の画像を拾うといった具合である)。見たい画像を効率よく探すための画像検索システムにおいて、通常は価値のない「エラー」と見なされ、無視される画像たち。それらを拾い上げ、映像作品の中で「再生」させて束の間の命を与えつつ、切り刻んで闇の中に葬り去る林の手つきには、デジタルデータとしての映像の軽さや儚さに対する両義的な眼差しが感じられる。
その姿勢は、「待機画面」のままのブルーのモニター画面が対置されることによって、即物的なレベルで補強されている。それは、「接触不良」のアクシデントといった現在時における潜在性かもしれず、「データの破損・劣化」「データの保存形式の旧式化」といった未来の展示における可能性かもしれないのだ。


《image data》展示風景
撮影:田中健作

2016/07/02(土)(高嶋慈)

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