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artscapeレビュー

アール・ヌーヴォーの装飾陶器

2016年09月01日号

会期:2016/07/06~2016/08/31

三井記念美術館[東京都]

アール・ヌーヴォーの作家としてすぐに名前が浮かぶのは、エミール・ガレやアルフォンス・ミュシャ。しかし、アール・ヌーヴォーが19世紀末から20世紀初頭の時代の様式の名称である以上、そこにはさまざまなジャンルの工芸、作家や工房が関わっている。本展はその中でもフランスやドイツ、北欧の名窯によるアール・ヌーヴォー様式の多彩な磁器に焦点を当てるほか、西洋から影響を受けた日本のアール・ヌーヴォーの陶磁も紹介している。
ヨーロッパ名窯のアール・ヌーヴォー様式の磁器を総合的に紹介する展覧会は日本初なのだそう。アール・ヌーヴォーの展覧会は頻繁に開かれている印象があるので、これはとても意外だった。立花昭・岐阜県現代陶磁美術館学芸員の解説に依れば、特定の作家の仕事というよりもメーカー(窯)が開発の中心となる磁器は、主に作家・デザイナーを中心として構成される日本の展覧会において体系的に紹介されにくかったという事情を指摘している。もちろん、メーカーの仕事であっても個々の作品にはデザイナーが存在するし、ガレの作品にしてもガレはデザインのみで、実際の制作は工房の職人が担っていた。工房や窯の規模の大小はあっても、作品に注目する限り作家とメーカー(窯)の関係にはそれほどの違いはない。それでも「陶磁器においてメーカーに着目するのは、……この時期の主要な各メーカーに在籍した化学者らによって釉下彩などの技法が完成にいたり、その組織力を生かして個人や小規模な工房では成し得ないような、新たな技法を用いた出色のデザインによる作品が生み出されていた例が多分にあったためである」(本展図録、6頁)。
ここに付け加えるとすれば、メーカー(窯)や工房の歴史と設立主体の違いが、展覧会における取り上げられ方の違いに影響しているだろうという点である。ガレやドーム兄弟のガラス工房が設立されたのは19世紀後半。それに対して、マイセンやセーブルが設立されたのは18世紀前半、KPMベルリンやロイヤル・コペンハーゲンは18世紀後半。これらの窯はアール・ヌーヴォーの時代よりも100年以上前から操業し、また設立には王室が深くかかわっている。ガレやドーム兄弟の工房は民間企業でほぼ一代で事業を終えているのに対して、本展で取り上げられているメーカーはいずれも(途中で経営主体が代わったり、他のメーカーと合併しているものもあるが)現存している。けっしてアール・ヌーヴォー様式のメーカー(窯)という訳ではなく、長期に渡る経営において当然のことながら製品のスタイルは時代によって変遷してきた。なのでメーカーという視点を取り込んでも、それだけでは「アール・ヌーヴォー様式の磁器」という枠組みに落とし込むのはやや強引である。しかし、本展が上手くまとまっているのは、釉下彩など新しい技術に着目することで、様式に留まらない同時代性を見出しているためだろう。そしてこの技術と様式の結合が日本のアール・ヌーヴォー磁器の完成に影響していることを示しているところ、19世紀末から20世紀初頭の陶磁器における東西交流にとても興味深い視点を提供している。[新川徳彦]

2016/08/10(水)(SYNK)

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