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ムサビのデザインVI:みんなのへや

2016年11月01日号

会期:2016/09/05~2016/11/12

武蔵野美術大学美術館 展示室3[東京都]

武蔵野美術大学 美術館・図書館がリニューアルオープンした2011年に始まった「ムサビのデザイン」シリーズ。第6回目は生活空間をテーマに会場は4つの「へや」で構成されている。1つめは、20世紀転換期にウイーンで活躍した建築家アドルフ・ロースがデザインした家具、照明、ガラス器が並ぶ「アドルフ・ロースのへや」。2つめは、北欧のモダン・デザイン、家具、照明、食器類が配された「北欧のへや」。3つめはチャールズ&レイ・イームズやジョージ・ネルソンらがハーマンミラー社から提案したミッド・センチュリーのモダン・リビングによる「アメリカのへや」。4つめは柳宗理や森正洋、剣持勇らが手がけた家具や食器、そして海外に戦後日本のモダン・デザインをアピールすることになったモントリオール万国博覧会日本館(1967年)の資料で構成された「日本のへや」である。それでは「へや」とはなんなのか。「みんな」とはだれなのか。これら4つの「へや」は相互にどのように関わり合っているのか。
本展を監修する柏木博(武蔵野美術大学教授)のテキストは、部屋について、自己の痕跡や記憶を集積させるもの、情報の空間(あるいは世界の圧縮)といった人の側から働きかけて構築される側面と、人の生活のありかた、人間関係に影響を与え、それらを規定する側面の2つを指摘している。また、20世紀半ばにおける「みんな」とは「民主主義」「インターナショナル」のことであり、それが「ミッド・センチュリーのデザインにとって『モダニズムであった』」という。とはいえ、戦後のモダニズムは「1920年代におけるそれとは、やや異なったもの」であり、その違いとは「それぞれの地域の特性を反映したモダニズム」なのである。(「『みんなのへや』を提案した時代」本展図録、8-17p)。戦後日本のデザインはアメリカの影響を強く受ける一方で、北欧のデザインもたびたび紹介されてきた。日本のデザイナーたちが日本的でありながらモダンな印象を持つデザインを模索する中でモデルとしたのが、インターナショナルなフォルムを持ちながらも地域性を残した北欧のデザインだった。アメリカも例外ではない。ミッド・センチュリーのデザイナーたちは、1950年代にアメリカとカナダを巡回した北欧デザイン展から影響を受け、それに対抗しうるデザインの提案を要請された。アドルフ・ロースは装飾のための装飾を批判し、その後のモダン・デザインの展開に大きな影響を与えた。しかし、北欧デザインの衝撃は、戦後のモダン・デザインに地域性、固有性という考えをもたらした。4つの「へや」は「モダン・デザイン」あるいは「ミッド・センチュリー」という言葉で括られがちな戦後モダン・デザインのローカリティを見せると同時に、「へや」を構成するもの、あるいは「へや」によって規定されるものによって、インターナショナルでありつつも地域の固有性を訴えてきた戦後デザインの姿を示している。[新川徳彦]


展示風景 左:アドルフ・ロースのへや 右:北欧のへや


展示風景 左:アメリカのへや 右:日本のへや

2016/10/24(月)(SYNK)

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