2018年01月15日号
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artscapeレビュー

NEWCOMER SHOWCASE #3 黒田育世振付作品『ペンダントイヴ』

2016年11月15日号

会期:2016/10/18

ArtTheater dB Kobe[兵庫県]

NPO法人DANCE BOXが主催する「国内ダンス留学@神戸」は、ダンサー・振付家を目指す人を対象に、劇場を拠点として約8ヶ月間、レクチャーやワークショップ、ショーイング公演を通して人材育成する取り組みである。「第5期生」を迎える本年度は、国内外で活躍する8名のアーティストの振付作品に取り組み、「NEWCOMER SHOWCASE #1~8」として公演シリーズを上演する。「#3」では、黒田育世が主宰するBATIKの代表作『ペンダントイヴ』(2007年初演)を、カンパニーメンバーと共に上演した。
BATIK作品の特徴は、身体を極限まで駆使する振付の過酷さや感情表現の激しさと、とりわけそれが女性ダンサーのみで踊られる際の、強烈な少女性の発露にあると言える。思春期にさしかかった少女たちが集団的陶酔の中で繰り広げる、渇望、破壊的衝動、抱擁や愛撫、恐怖、孤立、歓喜、絶望。理由は不明のまま、感情だけが裸形で増幅され、過剰な身振りとして提示される。色とりどりの花のようなワンピースをまとったダンサーたちは、泣き、叫び、笑い転げ、身体を床に激しく打ちつけ、痙攣し、身悶えし、「○○ちゃーん」と互いの名を呼び合う。「固有の存在」として承認されたい欲求や焦燥感と、それが成就された時の歓びと、絶叫するまで呼びかけても応えてくれない絶望とが渦まくように交錯する。
ダンサーは全身を痙攣させ、過呼吸のように肺を激しく上下させるが、それが「振付」であるのか、激しい運動のせいで本当に過呼吸に陥ったのか、判断不可能に思わせるほどの過酷さと暴力が露呈する。踊り狂い、走り回り、泣き叫び、疲弊していく身体は「死」に近づく一方で、生の充溢を極限まで剥き出しにする。倒れるまで踊っても、「せーの! 1、2!」という掛け声とともに立ち上がり、再び踊り始めるダンサーたち。少女たちは生贄として捧げられるが、「死」と「再生」は執拗に反復される。誰かが(おそらくは「不在」の男性が)それを望み続ける限り、本当の「死」は訪れず、生贄の儀式は繰り返されるのか。あるいは何度でも「生き返って」踊り続けることは、「無垢なる死」への果敢な抵抗なのか。クライマックスで、空中ブランコのようなバーに両手を掛けてぶら下がり、孤独な美しい独楽のように高速で回転し続けるダンサーは、「吊られたイヴ」をまさに体現しながら、紙吹雪が祝福的に降り注ぐなか、めくるめくエクスタシーを味わい続ける。
一方、今回の上演で興味深かったのは、10名の出演者のうち、1名の男性ダンサーが入っていたことだ。他の女性ダンサーたちと同じく、ワンピースを着用し、後半は下着姿で踊るが、「女性(少女)を演じよう」という意識の無さがむしろ違和感を感じさせず、彼の肉体のままで存在していた。そのことは、「純粋無垢な少女が持つ残酷さや、生贄としての死」といった定式の呪縛から、距離をおいてBATIK作品を見ることを可能にするとともに、身体それ自体の力強さやエネルギーの過剰さをクリアに浮かび上がらせていた。それは同時に、なぜ踊るのか? 身体があることは無上の喜びなのか、(痙攣や過呼吸のように)自分の身体から疎外される絶望的な苦痛なのか? 感情があるから身体が動くのか、身体に負荷をかけ続けることで制御不可能な感情が発生するのか? 集団の中で共にいることと、個別的な存在として承認されることは両立するのか? といった根源的な問いを発していた。


撮影:岩本順平

2016/10/18(高嶋慈)

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