2018年01月15日号
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artscapeレビュー

柳幸典「ワンダリング・ポジション」

2016年11月15日号

会期:2016/10/14~2016/12/25

BankART Studio NYK[神奈川県]

柳は日本の現代美術シーンの中心にいると思ったら、いつのまにか忘れられて、でもまた注目を浴びたかと思ったら、また中心から外れていくという繰り返し。それが「ワンダリング・ポジション」(=さまよえる位置)の意味のひとつだろう。ぼくが最初に見た柳の作品は、たしか土の球体だ。一見重そうだが、ヘリウムガスを詰めたバルーンの表面に土を塗っているので宙に浮く。次に見たのは、色煙を詰めたドラム缶を絵具のチューブに見立て、周囲をカラーに染める作品。その次が地面を鯛のかたちに掘ってモルタルで固めた巨大な鯛焼き状の作品だったと思う。いずれも80年代後半で、どれもダイナミックでありながらとぼけたユーモアを漂わせるが、思いつきでやってるようで一貫性が感じられず、捉えどころがなかった。それも「ワンダリング・ポジション」と呼ばれるゆえんだ。そのせいか、活躍が目立つ割に、90年ごろから増えてきた欧米を巡回する日本の現代美術展に選ばれることも少なかった。あとで考えれば、彼こそ80年代のポストもの派と90年代のネオポップをつなぐ存在だったことに気づくのだが。
この展覧会には初期の土の球体をはじめ、蟻が浸食する「国旗」シリーズ、判子やネオンでつくる「日の丸」シリーズ、憲法9条を分解してネオンで表示する「アーティクル」シリーズなど、代表的な作品がほぼそろっている。圧巻は3階のインスタレーションで、瀬戸内海の犬島プロジェクトの一部を再現したもの。正面に見える光に向かって暗い迷路を歩いて行き、ようやく出口にたどりつくと、そこに広島に投下されたリトルボーイがぶら下がっている。これは迷宮に閉じ込められたイカロスが翼をつけて脱出し、太陽に近づいて落下したという神話を現代に重ねたもの。さらに奥の部屋に進むと、放射能の汚染土を詰めた黒い袋や廃車、廃棄物でつくられた巨大なゴジラの頭が鎮座する。ゴジラが放射能によって突然変異し、放射能をまき散らすモンスターであることを思い出せば、3階のインスタレーションがなにを表わしているかはいうまでもない。ここは見事に一貫している。

2016/10/14(金)(村田真)

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