2018年10月15日号
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artscapeレビュー

デザインの解剖展 身近なものから世界を見る方法

2017年02月01日号

会期:2016/10/14~2017/01/22

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

デザインの方法論ではない。デザインの解説でもない。「デザインの解剖」である。すなわちデザインの腑分けである。すなわち、外側から内側へと順々に商品を構成する部位を取り出し、一つひとつをデザイン的な視点から分析してゆく。そういう展覧会である。「解剖」の対象は、株式会社明治の5つの製品──きのこの山、明治ブルガリアヨーグルト、明治ミルクチョコレート、明治エッセルスーパーカップ、明治おいしい牛乳。「解剖」のフォーマットはほぼ共通。最初に商品とその市場、歴史の解説からはじまり、ネーミング、ロゴタイプ、商品コピー、イラストレーション等々、表面的に観察可能な要素を分析する。ここまではよくあるデザインの展覧会だ。しかし「デザインの解剖」が解剖たるゆえんは、それが表面的な観察にとどまらないところにある。視点は商品の皮膚の下、すなわちパッケージの素材、構造、内袋・内蓋へと進み、中身──チョコレートや牛乳、アイスクリームなどの製法、組成の分析に至る。とくに最後のそれは一般的な意味での「デザイナー」による仕事ではないが、菓子、加工食品において、かたち、味、舌触り、食感もまた入念に「デザイン」されていることが示される。広義の「デザイン」は視覚だけではなく五感すべてに訴えるものなのだ。
グラフィックデザイナー・佐藤卓の企画による「デザインの解剖」シリーズの最初の展覧会は2001年。銀座松屋7階デザインギャラリー1953で開催された「デザインの解剖①=ロッテ・キシリトールガム」だ(今回は大人の事情によりこの「解剖」は展示されていない)。以来、富士フイルムの「写ルンです」や「タカラ・リカちゃん」等々の「解剖」が行なわれてきた(こちらは展示されている)。また佐藤は武蔵野美術大学の客員教授として、カリキュラムに「デザインの解剖」を取り入れている(本展でもその成果が紹介されている)。「解剖」の対象が私たちに身近な大量生産品であることや、外から内へと分析を進める手法はシリーズを通して変わらない。担当者へのインタビューがなされている部分もあるが、基本的には外部からの目線で考察されている。
本展で取り上げられている商品はいずれもロングセラーブランド。5つのうち最も新しい商品「明治おいしい牛乳」でも発売は2002年で、若干のデザイン修正を経ながらすでに14年にわたって売られ続けている。それゆえ5つの商品はいずれもデザインとしても成功していると言ってよいと思われる。しかしながら、興味深いことにここではデザインの理由は分析されても、その評価には言及されていない。これを、良いデザインには理由がある、と読むこともできるかもしれないが、それは本展の本質ではないだろう。展覧会導入部の解説パネルの佐藤卓によるテキストによれば、本展の意図するところは「ものを通して世界を見る」ための「方法」であり「OS」なのだ(改めて展覧会のサブタイトルを見よ)。「商品を外側からとらえていくと、商品と社会との関係を広くとらえること」ができ、「商品開発の歴史的な経緯、社会や市場の中での位置づけ、不特定多数の人々の嗜好、そして販売される国の言語や文化がなんらかの形で反映されていることが浮かび上が」る。ひとつの商品が世の中に出て行くまでにいったいどれほど多くの制約、要求を乗り越えていかなければならないのか。売られ続けていくなかでどのような変化が生じているのか。そうした制約や変化は、商品やパッケージ、それらの原材料を取り巻く環境、社会の変化、技術の変化にどれほど深く関わっているのか。作家性が強いデザイナーの仕事ではなく(もちろんデザイナー自身、時代と社会の産物ではあるが)、多くの人々がそれがデザインされているということを意識しないようなありふれた商品に焦点を当てて詳細に分析することによって、私たちは社会をより深く知ることができるのではないか。「解剖」のプロセスを順に追ったあとで、こんどは展示を逆順に見ていくと、本展がデザインを見せる展覧会であると同時に、「世界を見る方法」を「デザイン」したものであることがよく分かるだろう。[新川徳彦]

2017/01/16(月)(SYNK)

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