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プレビュー:村川拓也『Fools speak while wise men listen』

2017年02月15日号

会期:2017/03/04~03/05 早稲田小劇場どらま館
会期:2017/03/09~03/12 アトリエ劇研

気鋭の演出家・村川拓也による演劇作品『Fools speak while wise men listen』(2016年9月に京都のアトリエ劇研にて初演)が、東京と京都の2都市で再演される。本作は、日本人と中国人の「対話」計4組が、ほぼ同じ内容を4セット反復するという基本構造を持つ。同じ「対話」が「(演出家不在の)稽古風景」のように何度も繰り返されるなか、「対話」の不均衡さが露呈されるとともに、「反復構造とズレ」によって「演劇と認知」の問題に言及し、モノローグ/ダイアローグという演劇の構造を鋭く照射する作品であった(詳細は以下のレビューをご覧いただきたい)。
この初演の後、村川は、中国でのワークショップとその発表公演、そしてユン・ハンソル監修の『国家』(韓国ver.)の2作品を各国で上演した。いずれも現地に滞在し、募集した出演者たちと共に作品を制作・発表することで、自身の立ち位置や政治・国家といった大きな事象への関わり方を問われる契機となったという。それは、2017年秋に京都で上演が予定されている〈日本・中国・韓国〉に関わる新作公演に向けての必要な過程であり、今回の再演にも大きな影響を与えるものと思われる。
また、村川は以前にも、「再演」の持つ可能性について追究してきた。前作『エヴェレットゴーストラインズ』は、公演の日時と舞台上で行なう指示が書かれた手紙を「出演者候補」に送り、指示に応じて現われた出演者(と指示を断った「不在」の出演者)によって舞台上の出来事が進行する、偶然性や不確定性をはらんだ演劇作品。1年後の再演では、上演形式を大きく変更し、4バージョンに展開して上演された(例えば、ver. B「顔」はある個人の死についての記憶を共有する複数人が舞台上に召喚され、ver. C「記録」ではARCHIVES PAYと共同制作し、あらゆる記録装置が持ち込まれた舞台上で、出来事の採集が同時進行的に行なわれた)。「初演のコンセプトを引き継ぎつつ、作品をひとつの演劇形式と捉え、その形式に4つのアイデアを投入することで本番ごとに異なる作品を生み出す」ことが目論まれた『エヴェレットゴーストラインズ』と同様に、今回の『Fools speak while wise men listen』の「再演」もまた、初演以降の現実社会の変化と村川自身の海外での上演経験によって、さらなる変貌を遂げて立ち現われることが期待される。

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