2018年10月15日号
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artscapeレビュー

山崎阿弥「声の徴候|声を 声へ 声の 声と」

2017年02月15日号

会期:2016/12/17~2017/01/22

京都芸術センター[京都府]

山崎阿弥は、自身の「声」を自在に用いて表現するアーティストであり、映像・造形作家でもある。これまで、灰野敬二、坂田明、外山明、鈴木昭男、飴屋法水らとの共演を行ない、2017年1月からNHKで放送される『大河ファンタジー「精霊の守り人」』シーズン2では、ナレーションと「精霊」などのさまざまな声で出演している。本企画「声の徴候|声を 声へ 声の 声と」では、録音された声を多重的に空間配置してつくり上げるインスタレーションの【re:verb】と、生声によるライブの【re:cite】という異なる2つの発表形態が展開された。
ライブの【re:cite】では、石川高(笙)と森重靖宗(チェロ)と共演。暗闇と静寂が支配するなか、登場した山崎の喉から漏れるのは、小鳥の囁くようなさえずりだ。一瞬にして、清澄な空気に満ちた森の中へと、空間が変貌する。威嚇するような獣の鋭い声、深い森の奥で鳥たちが囁き交わすざわめき、風の吹きすさぶ草原、ゴボゴボと音を立てて速い水が流れる渓流、そして切れ切れに歌われる子守歌のような微かな旋律。口笛、囁き声、喉を鳴らす音、息の漏れる音、舌打ち、など多様な技法を駆使して発される「声」に、チェロと笙の神秘的な音が寄り添い、さまざまな「風景」が音響的に立ち現われては消えていく。山崎の姿は、モンゴルのホーミーやイヌイットのスロート・シンガーを思わせ、自身の声を媒介に自然と交信しているかのようだ。
一方、サウンド・インスタレーションとして展示された【re:verb】では、会場となった元小学校の1階から3階までのスロープや廊下に、10~20個ほどのスピーカーを点在させ、各スピーカーからそれぞれ異なる「声」が再生され、多重的に重なり合う音の磁場をつくり上げた。1階では動物や鳥の鳴き声が響き合い、生命に満ちた森の喧騒を思わせるが、スロープを上がるにつれて、口笛混じりの歌が聞こえ、「人間」の気配を感じさせる音響が入り混じり、3階の上方からは天上的なハミングの調べが恩寵のように降り注いでくる。あるいは、風に混じってしわがれ声の呪詛のような音響が耳の周りをすばやく通過する。空間の上昇とともにサウンドスケープが変化し、微かな物語性が発生する。録音の複製性を、声の「複数性」へと読み替えて展開させたこの【re:verb】では、ライブ公演における単線的な時間的展開に対して、鑑賞者の歩行やその速度、身体の向きの変化によって、音響が空間的な遠近感を伴って展開・聴取される。音の回廊の中を歩き周り、音の磁場の中で佇み、突然あらぬ方向から聞こえてきた音の方へ耳を澄ます。それぞれの観客ごとに、同じ聴取経験は二度となく、表現手段として複製技術を使っているものの、体験自体は複製できない。水や風がしゃべっているのか? 人の声が自然の音を模倣しているのか? 聞いているうちに両者が曖昧になり、境界が溶け合うような感覚に包まれる。真冬の夜の暗闇の中、ひとりで音の磁場の中に身を置いていると、肉体が消滅した後はこの響きの中に加わって一緒になるのだ、そんな思いに襲われた。

2017/01/20(金)(高嶋慈)

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