artscapeレビュー

プロジェクト大山、アンビギュアス・カンパニー『戦場のモダンダンス「麦と兵隊」より』

2017年03月01日号

会期:2017/02/17~2017/02/19

横浜赤レンガ倉庫1号館2Fスペース[神奈川県]

大野一雄舞踏研究所は、ダンスアーカイヴ・プロジェクトを数年前から始めている。今年は江口隆哉と宮操子が1938年に上演した『麦と兵隊』にプロジェクト大山とアンビギュアス・カンパニーが取り組んだ。帝国劇場での初演後、日中戦争の戦火のなか、二人は慰問団として戦地に赴き、この作品の一部を上演したという。「再現不可能であることは自明」と本公演の紹介文に記されているように、おそらく参考資料は乏しく、ダンスの再現という点で苦労があったろうことは想像に難くない。それにもかかわらず、過去の作品を取り上げ、現代に問いかけようとする本プロジェクトの意義はそれ自体で評価されるべきものだ。であるからこそ、本作における諸点が少し残念に思えてしまう。『麦と兵隊』という作品の振り付けを再現することは難しかったのかもしれないが、当時の江口、宮が行なっていたダンスとはどんなもので、それを人々はどう受容していたのかという点がもっとクリアであるとよかった。原作と現代の二つのカンパニーのアイディアとが混ざり合って、当時を慮ることが難しく感じられた。その点では、レクチャーパフォーマンスの要素が入っているとよいのではないかと思わされた。
古家優里(プロジェクト大山)らしいコミカルな動きで観客から笑いを取るところは、「今日のコンテンポラリーダンス」的な要素といえるだろう。リズムでイージーに笑いを取ろうとする振る舞いが、戦中という時代を取り上げることとどう関連するのかがよくわからなかった。でも、わからないなあと思いながら、いま、もし大規模な戦争があったとして、慰問団はどう構成されるのだろうかと想像させられた。コンテンポラリーダンスは招聘されるのだろうか。今日の(想像上の)慰問と当時の慰問とではどんな違いが発生するのだろうか。もう少し調べられたらよかったかもしれないのは、当時の兵隊たちの心の様子だ。舞台には当時の慰問団の様子が映された。そこには数千人規模の兵隊たちがしゃがんで舞台へ目を向けていた。彼らは何を思い、ダンスに何を見たのだろう。そこに想像力を傾けることもあったらよかったのではないだろうか。

2017/02/17(金)(木村覚)

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