2018年07月15日号
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artscapeレビュー

マルセル・ブロイヤーの家具:Improvement for good

2017年04月01日号

会期:2017/03/03~2017/05/07

東京国立近代美術館[東京都]

戦後、パリの《ユネスコ本部》やニューヨークの《旧ホイットニー美術館(現メトロポリタン美術館分館)》を設計したデザイナー、建築家・マルセル・ブロイヤー(1902-1981)の家具デザインを紹介する展覧会。ブロイヤーの家具といえばイメージされるのはスティールパイプを使った《クラブチェアB3》(ワシリーチェア)。1925年、23歳のときに考案したこの椅子をブロイヤーは自転車のハンドルから着想したといわれている。それ以前から鋼管を用いた家具は存在した。ジークフリート・ギーディオンによれば、1830年頃にはベッドに鉄パイプを用いる試みがなされ、1844年には鉄パイプを曲げてつくった椅子が現れている。しかしながらその椅子は木製の椅子を模倣し、パイプは木や象嵌に見えるように塗装され、座面にはクッションがはめ込まれていた(榮久庵祥二訳『機械化の文化史』鹿島出版会、2008、456-457頁)。これに対してブロイヤーの椅子は継ぎ目がないようにみえるパイプで構造をつくり、座面と背もたれはテンションをかけた布あるいは革によって構成され、非常に軽く見える。鋼管パイプを用いたとはいえ、木製のデザインを踏襲した椅子とはまったく異なる思想によるものだ。その思想は、バウハウスのウォルター・グロピウスが1921年頃から取り組んでいたユニット住宅案に呼応している。すなわち、部材の規格化、共通化によるコストダウンである。これらは素材や技術の問題であるが、他方で当時現れてきたモダンな建築にふさわしい新しい家具への需要があった。会場に掲出されているインテリア写真にロココ調猫脚の椅子、ソファがあったらと考えてみれば、その要求が切実なものであったことが理解できよう。建築家たちはしばしば自ら家具をデザインしたが、ブロイヤーの場合は家具からスタートして建築へと向かった。そこにもまたグロピウスの思想が大きく影響している。
本展では、主として時系列順に、ブロイヤーがヴァイマール時代のバウハウスで手がけた木製家具から始まり、デッサウ時代のスティールパイプの椅子やネストテーブル、スイス・イギリス在住時代のアルミニウムの椅子や、同様の構造を持ったプライウッドの椅子、1937年にアメリカに渡り建築へと仕事の比重を移す中で手がけた家具と住宅建築を見せ、最後にブロイヤーと日本──芦原義信──との関わりが紹介されている。見所はスティールパイプ以前の木製の家具と、バージョンが異なる4つの《クラブチェアB3》だろう。特に後者の微妙な差異(たとえば溶接がビス留めに変更されている)からは、量産に向けて行われたデザインの調整と合理性追求のプロセスが垣間見えて興味深い。
さらに本展では展示デザインに力が入っていることを付記しておきたい。モノトーンでシンプルに見える展示台は、よく見ると色や素材感にこだわっていることが分かる。ガラスケースを用いて資料、写真、テキストをレイヤーに重ねた年表のデザインも面白い。会場構成はLandscape Products。サンセリフ書体で統一されたモダンなデザインの図録は、資料集としても充実した内容だ。[新川徳彦]


展示風景


展示風景

2017/03/15(水)(SYNK)

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