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artscapeレビュー

誕生 日本国憲法

2017年06月01日号

会期:2017/04/08~2017/05/07

国立公文書館[東京都]

今年は1947年5月3日に施行された日本国憲法の70周年。本展は、日本国憲法の原本のほか、マッカーサーによる憲法草案、憲法の作成で使用された英語辞典、国務大臣への任命書など、日本国憲法にかかわる関係資料を展示したもの。理念としての存在を感知することはあっても、日頃その存在を具体的にイメージする機会に乏しい者にとっては、それを目の当たりにすることのできる絶好の機会であった。
とりわけ昨今、これを敵視する一部の政治家によって、日本国憲法はかつてないほど大きな危機に瀕していると言わねばならない。ましてや政治の現場において虚言と虚妄の身ぶりが言葉を次々と破壊している現状にあっては、原理的には言葉の集積にすぎない憲法は、思いのほか脆くも儚い。それが政治権力の野放図な暴走を戒めるための「構成的権力」であったとしても、言葉で構成されている以上、政治権力の横暴を実質的に拘束することは極めて難しいと言わざるをえない。
だからこそ必要なのは、憲法の日常への下降である。それを、世界に類例を見ないコンセプチュアル・アートのひとつとして位置づけることもできなくはない。だが芸術という価値を付与するだけでは、他の芸術的価値の多くがそうであるように、たちまち日常のなかで雲散霧消してしまいかねない。私たちの日常が憲法によって守られているというより、それが憲法によって構成されているという事実を、つねに召喚する仕掛けが必要なのではないか。本展は、そのための機会として極めて重要である。多くの現代人にとっては明文化された憲法を目にする機会じたいが乏しいからだ。
本展で展示されていたように、昭和天皇は日本国憲法公布の日(1946年11月3日)、貴族院本会議場で次のような勅語を下した。「本日、日本國憲法を公布せしめた。この憲法は、帝國憲法を全面的に改正したものであつて、國家再建の基礎を人類普遍の原理に求め、自由に表明された國民の總意によつて確定されたのである。即ち、日本國民は、みづから進んで戰争を放棄し、全世界に、正義と秩序とを基調とする永遠の平和が實現することを念願し、常に基本的人権を尊重し、民主主義に基いて國政を運営することを、ここに、明らかに定めたのである。朕は、國民と共に、全力をあげて相携へて、この憲法を正しく運用し、節度と責任とを重んじ、自由と平和とを愛する文化國家を建設するやうに努めたいと思ふ」。
今も昔も、美術や芸術に携わる者が政治を忌避することは事実だとしても、その美術や芸術そのものが、昭和天皇が宣言した「文化国家」の一部である以上、少なくともそれらが憲法と無縁であることは到底ありえない。日本国憲法を唾棄する者ですら、よもや昭和天皇の言葉を破壊することまではできまい。これらの言葉は私たちの耳にいつまでもこだまするだろう。

2017/04/23(日)(福住廉)

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