2018年07月15日号
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artscapeレビュー

むらたちひろ internal works / 水面にしみる舟底

2017年06月15日号

会期:2017/05/16~2017/05/28

ギャラリー揺[京都府]

ろうけつ染めや型染を応用した独自の技法を用い、染めた布を水で滲ませることで、揺らぎを伴った流動的なイメージを「絵画作品」として発表してきたむらたちひろ。本個展では、写真を素材に用いた新たな試みが発表された。
身近な風景を撮影し、写真の画像データをインクジェット捺染で布の片面(A面)にプリントする。これを裏返した面(B面)を水で濡らすと、A面にのっている染料が水に浸透し、裏のB面に滲み出てくる。展示されているのはB面のほうだ。水で濡らされた箇所は、そこだけ光が差し込んだかのように、鮮やかな色が息づく。画像データが染料という物質に変わり、水の浸透という物理現象によってイメージが出現する様は、写真の現像プロセスそれ自体の反復を思わせる。また、染料が水に溶けて曖昧に滲んだイメージは、記憶のプロセスともアナロジカルだ。裏側へいったん遠のいたイメージが、水という媒体を経て、鮮やかに浮かび上がる。写真に写った何かがトリガーになり、薄れかけた記憶がふと蘇る。ここで「浸透する水」は、写真を事後的に眼差す「視線」の謂いとなる。だが記憶は完全なかたちで蘇ることはなく、滲みや歪みを伴い、不鮮明な領域や欠落をその背後に抱え持っているだろう。
このように、染色を用いたむらたの作品は、「写真」と「記憶」をめぐる思考の可能性を宿している。今はまだ実験的な段階かもしれないが、撮るモチーフの選択、使用する写真自体の選択(自分で撮った写真/他人の写真の引用/古写真を使うなど)、「滲み」の形態に積極的な意味を持たせるかどうかなどの点をさらに吟味すれば、より発展的な作品へと結実するのではないだろうか。

2017/05/26(金)(高嶋慈)

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