artscapeレビュー

藤岡亜弥「アヤ子、形而上学的研究」

2017年06月15日号

会期:2017/05/09~2017/05/26

ガーディアン・ガーデン[東京都]

藤岡亜弥は、日本大学芸術学部写真学科を1994年に卒業し、16人の女性写真家たちのアンソロジー写真集『シャッター&ラブ』(インファス、1996)に作品を発表してデビューした。以後、コンスタントにいい仕事を続けてきている。写真集としてまとまったのは、『さよならを教えて』(ビジュアルアーツ、2004)、『私は眠らない』(赤々舎、2009)の2冊だけだが、台湾、ニューヨークに長期滞在して撮影した厚みのあるシリーズもある。ブラジル移民の二世だった祖母の足跡を辿った「離愁」(2012)も印象深い作品だ。2016年に、広島をテーマに銀座と大阪のニコンサロンで開催された個展「川はゆく」は、同年度の伊奈信男賞を受賞した。今回、ガーディアン・ガーデンのSecond Stageの枠で開催された藤岡の個展「アヤ子、形而上学的研究」は、単独の作品ではなく、ミニ回顧展とでもいうべき構成をとっていた。
69点の写真は7つのパートに分かれている。「アヤ子江古田気分」、「なみだ壷」、「台湾ミステリーツアー」などの初期作品を集めたパートから始まり、「さよならを教えて」、「離愁」、「Life Studies」、「Tokyo Ghost Tour」、「私は眠らない」、「川はゆく」の各シリーズからピックアップされた写真が並ぶ。そのなかで、ちょうど2000年代初頭(「離愁」と同時期)に撮影された「Tokyo Ghost Tour」の写真群に強く惹きつけられた。もともと藤岡の写真には、生者と死者(Ghost)とが入り混じって存在しているような気配が色濃く漂っている。現実の空間から半ば離脱し、非日常の幽界に足を踏み入れつつある、そんな死者たちを写真に呼び込むようなアンテナが藤岡には備わっているのだ。そのアンテナの精度は、近作になるにつれてさらに高まりつつあるように見える。その意味では、もうすぐ赤々舎から刊行されるという新作『川はゆく』がとても楽しみだ。初めてデジタルカメラで撮影したのだというこのシリーズで、ヒロシマの死者たちは、藤岡の写真の中にどんなふうに姿をあらわすのだろうか。

2017/05/09(火)(飯沢耕太郎)

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