2018年01月15日号
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artscapeレビュー

奥山由之「君の住む街」

2017年06月15日号

会期:2017/04/27~2017/05/07

スペース オー[東京都]

ちょうどトークショーの開催直後だったということもあって、原宿・表参道ヒルズ内の会場には観客があふれていた。同名の写真集(SPACE SHOWER BOOKS)の販売ブースやサイン会には長蛇の列。奥山由之の人気がいまや沸騰しつつあることがよくわかった。
今回の展示は、ファッション雑誌『EYESCREAM』2014年3月号~2016年11月号に連載された「すべてポラロイドカメラによって撮影された35人の人気女優」のスナップ=ポートレートのシリーズを中心に、撮り下ろしの東京の風景写真を加えて構成している。奥山の人気の秘密は、すでにタグ付けされている彼女たちのイメージを、ポラロイドのあえかな画像で、誰にでも手が届くレベルにまで引きおろしたことにあるのだろう。とはいえ、特に過激な再解釈を試みるのではなく、あくまでもインスタグラムで「いいね!」がつく範囲に留めている。そのあたりの匙加減が絶妙で、観客(男女の比率はほぼ半分)は、あたかも自分のために撮影された写真であると思いこむことができる。むろん、それをただの幻影にすぎないと批判するのは簡単だ。だが、どの時代でも観客とスターたちとのあいだに見えない回路をつくり出す特殊な魔法を使える写真家はいるもので、現在では、奥山がそのポジションに一番近いのではないだろうか。
以前、彼の写真展(「Your Choice Knows Your Right」RE DOKURO)について「ファッション写真の引力権から離脱すべきではないか」と書いたことがあるが、本展に足を運んで、必ずしもそうは思えなくなってきた。魔法は使えるうちに使い尽くしてしまうべきだろう。ファッションや広告を中心に活動する写真家が、「アート」の世界に色目を使うと、あまりにも過剰に反応し過ぎて、かえってつまらない作品になってしまうのをよく見てきた。シリアスとコマーシャルの領域を、むしろ意図的に混同してしまうような戦略が、いまの奥山には似合っているのではないだろうか。

2017/05/03(水)(飯沢耕太郎)

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