2017年12月15日号
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artscapeレビュー

モダンリビングへの夢──産業工芸試験所の活動から

2017年08月01日号

会期:2017/05/22~2017/08/13

武蔵野美術大学 美術館[東京都]

産業工芸試験所(産工試)とは、1928年に設置された商工省工芸指導所が1952年に改称改組された、通産省工業技術院下の機関。工芸指導所は国内産業と輸出産業の振興を、工芸およびデザインの面から行うことを目的として設立され、産業工芸試験所は戦後その事業を引き継いだ。事業を遂行する過程で、産工試は国内外から多くの生活用品を参考品として収集。また国内各地の試験所、生産者と協力して試作品を制作している。参考品、試作品の一部は現在、武蔵野美術大学、東京造形大学、多摩美術大学、家具の博物館の4ヶ所に寄託されている。この展覧会では、武蔵野美術大学に寄託されている1950年代から60年代の参考品と試作品により、当時の日本が目指していたデザインを見ようという企画だ。1950年代の日本のデザインにおける課題は、意匠盗用だった。戦後復興期に海外輸出が再開されると、欧米の製造業者、業界団体から日本製品が自国の製品の意匠を盗用しているとのクレームが相次ぎ、国際問題に発展していた。1957年に始まった「グッドデザイン商品選定制度(現 グッドデザイン賞)」の背景にも外国意匠の盗用問題があり、オリジナルのデザインが強く求められていた。産工試は留学生などを通じて主にアメリカ市場で参考品を購入、調査分析し、機関誌『工芸ニュース』誌上で報告。模倣や盗用ではなく、海外市場で受け入れられる工芸、デザインの開発を行なっていた。今回の展覧会では、展示室の一方に海外の参考品、反対側に産工試による試作品を並べ、日本のデザインが参考にしたものと目指したもの──ジャパニーズ・モダンのデザイン──を展望する構成になっている。
参考品の大部分はアメリカで購入されたものだそうだが、そこに北欧のプロダクトが多く含まれている点が興味深い。それは当時アメリカで北欧デザインが人気を呼んでいたからでもある。ただし、ただ市場で売れ筋の商品を選んで購入したのではなく、デザイン的に優れたものが選ばれていたようだ。たとえば、カイ・フランクがデザインした陶器、アルヴァ・アアルトのガラス器等々、参考品にはその後名作デザインと呼ばれるようになった製品が多数含まれており、当時これらの製品を選んだ人々の目の確かさがうかがわれる。これに対して、いかにもアメリカ的な量産品が目立たないのは、日本が目指すべき輸出デザインはそれではないとの判断があったのだろうか。あるいは北欧のクラフト的なものづくりが、当時の日本の技術とマッチしていたということなのだろうか。試作品には参考品の影響を直接感じるものは少なく、アメリカ市場で受け入れられているモダンデザインを消化、吸収し、そこに日本ならではの技術、意匠を付加しようとした試みの痕跡を見ることができる。とくに木工製品、竹製品にその印象が強い。陶磁器やプラスチック製品は、安価な量産品ではなく、デザインによって付加価値を付けようという意図が見える。また、試作は見た目のデザインにとどまらず、協力工場などを通じて商品化のための工程が検討されている。組み立て式の照明器具など、輸出時の梱包をコンパクトにする実際的な工夫も見られるのだ。
ところで、産工試によるこうしたデザインの試みはどこまで成功したのだろうか。商品化された製品はどの程度海外市場で売れたのだろうか。残念なことに現在までのところ、市場における成否を裏付ける資料は知られていないとのこと。本展で見ることができるのは1950-60年代の海外市場を目指したデザイン開発であるが、そこに関わった人々が後に日本人の生活のためのデザインにも関わっていったであろう点にも注目したい。また武蔵野美術大学以外に寄託されている実物資料の同様の調査も待たれるところだ。[新川徳彦]


会場風景

2017/07/13(木)(SYNK)

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