2017年12月15日号
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artscapeレビュー

紀成道「Touch the forest, touched by the forest.」

2017年08月01日号

会期:0217/07/05~2017/07/18

銀座ニコンサロン[東京都]

紀成道(きの・せいどう)は1978年愛知県名古屋市生まれ。2005年に京都大学大学院工学部エネルギー科学研究科を中退し、写真家の道を選んだ。今回の展示は、北海道苫小牧市の近郊の精神科病院の「森林療法」の場面を撮影した写真、35点で構成されていた。病院を取り囲む森には全長1.7キロに及ぶ散策路が設けられており、患者さんたちは週一回の「森林療法」に参加することができる。紀が撮影したモノクロームの写真には、自然に包み込まれ、晴れやかな笑顔を見せる患者さんたちの姿が写り込んでおり、開放的な雰囲気で行なわれている治療の様子がしっかりと伝わってきた。それとともに、患者さんたちの日々の暮らしや、森の季節の移り変わりもきちんと捉えられている。会場には木製のパネルに焼き付けた写真を組み合わせたインスタレーションもあり、気持ちよく写真を見ることができる環境が整えられていた。
紀がこのシリーズを撮り始めるきっかけになったのは、大学院時代に精神的に不安定になったときに、京都近郊の森に入って癒された経験があったからだという。たしかにこれらの写真を見ていると、いわゆる健常者と障がい者との境界線が、まさに紙一重のものであることがよくわかる。「人間と自然の接続域と、当事者と健常者の共存域」と、紀は「あとがき」に書いているが、たしかにその二つの領域が混じり合っている場所こそ、彼の被写体となった北海道の「ふれあえる森」なのだろう。作品は森での体験をベースにしつつ、繊細さと大胆さがうまく噛み合ったドキュメンタリーとして成立していた。
なお、展覧会にあわせて赤々舎から同名の写真集が刊行された。その表紙には、彼が森で拾い集めてきたという落ち葉が、一枚ずつ丁寧に挟み込まれている。

2017/07/15(土)(飯沢耕太郎)

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