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源信 地獄・極楽への扉

2017年08月01日号

会期:2017/07/15~2017/09/03

奈良国立博物館[奈良県]

平安時代の僧・恵心僧都源信(942~1017)は、死後に阿弥陀如来の来迎を受けて極楽浄土に生まれることを願う「浄土信仰」を広めた人物であり、誰にでも分かりやすく地獄と極楽の姿を説いた『往生要集』を著したことでも知られている。本展では、源信の足跡をたどりつつ、地獄絵、六道絵、来迎図の名品によって、仏教の死後の世界観を体感するものだ。前後期で作品の多くが入れ替わるが、筆者が鑑賞した前期では、聖衆来迎寺の「六道絵」15幅は圧倒的な存在感があった。また来迎図、極楽図では、當麻寺の「當麻曼陀羅(貞享本)」と「當麻寺縁起 下巻」、知恩院の「阿弥陀聖衆来迎図(早来迎)」がおすすめだ。ただ、これらの作品は細密描写が多く、肉眼で細部まで見切るのは至難の業。しかも平安や鎌倉期の作品にはイメージがかすれているものも多い。これから出かける予定の方にはオペラグラスか単眼鏡の持参をおすすめする。それにしても本展で見られる地獄と極楽のイメージは現在でも十分通用する。逆に言えば我々日本人の死後の世界のイメージは、源信が活躍した時代に形成されたのだ。その事実を知ったことが、筆者にとって最大の収穫だった。

2017/07/14(金)(小吹隆文)

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