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國府理「水中エンジン」REDUX

2017年08月01日号

会期:前期2017/07/04~2017/07/16、後期2017/07/18~2017/07/30

アートスペース虹[京都府]

國府理(1970~2014)が2012年に発表した問題作《水中エンジン》。同作は彼が愛用していた軽トラックのエンジンを水槽に沈めて稼働させるもの。エンジンを水に沈めること自体に無理があり、2012年の個展(初お披露目)では彼がつきっきりでメンテナンスを続けていた。同作は発表時期からも分かる通り、東日本大震災の原発事故から着想したものだ。その後、2013年に西宮市大谷記念美術館(兵庫県)での個展に出品され、今年4月から6月にかけて小山市立車屋美術館(栃木県)で行なわれた「裏声で歌へ」展にも再制作版が展示されている。さて肝心の本展だが、会期を2週間ずつ前期と後期に分け、前期は記録映像とエンジンのみを吊り下げた状態で展示し、後期は再制作版と2012年の個展で撮られた写真2点で構成された。同作は震災後につくられた美術作品のなかでも特に重要なものであり、その姿が記録だけでなく(再制作版とはいえ)実物で示されたのは特筆すべき成果だと思う。別の観点でいえば、われわれはひとつの美術作品が伝説化されていく過程をつぶさに見たことになる。例えば関根伸夫の《位相─大地》のように、何十年経っても消えない美術アイコンがここに生まれたということか。こういう卑俗な発言をすると美術ファンや関係者から軽蔑されるかも知れないが、それもまた一面の事実だと思う。

2017/07/04(火)、2017/07/18(火)(小吹隆文)

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