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artscapeレビュー

没後90年 萬鐵五郎展

2017年08月01日号

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会期:2017/07/01~2017/09/03

神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]

萬鉄五郎の没後90年記念展。1997年には没後70年の回顧展が東京国立近代美術館で行なわれたが、10年後にはキリよく没後100年記念展が開かれるだろうか。生誕でいうと、1985年には生誕100年展が鎌倉などを巡回したが、別に10年とか100年単位で企画しなければならない決まりはないので、来年生誕133年記念展を開いてもかまわないわけだ。だれも企画しないだろうけど。ちなみに、萬の初の本格的な回顧展は1962年に鎌倉で開かれたもので、画家が亡くなってから35年もたっていた。そんなわけで今回、約20年周期の大規模な回顧展となる。
萬というと乱暴にいってしまえば、東京美術学校の卒業制作として描かれた《裸体美人》が、日本におけるポスト印象派やフォーヴィスムの代表作とされ、5年後の《もたれて立つ人》が日本のキュビスムの受容を体現する作品として知られている。美術史の教科書にもこの2点がしばしば掲載されるが、そのどちらも東京国立近代美術館の所蔵だから、さすがお目が高いというか、いいとこどりというか。まあ東近が持ってるから日本近代美術史の代表作として祭り上げられた面もあるかもしれない。ともあれ、それ以外の大半の作品は故郷の岩手県立美術館か、萬鉄五郎記念美術館の所蔵品だが、故郷の美術館に大量に入ってるということは、作品がほとんど売れず画家の手元に残っていたことの証でもあるだろう。生前はあまり評価されていなかったのだ。
出品は、油彩が131点、水彩・素描・版画が157点、水墨画が75点の計363点、資料を加えれば442点。途中展示替えがあるとはいえ、これだけのボリュームの展覧会はめったにない。意外なのは水墨画が多いこと。特に故郷に戻ってからと晩年に集中しているのは、売る目的で描いたからか。田舎では(東京でもそうだが)油絵より水墨画のほうが確実に売れるからだ。モダンアートの先駆者という顔を持ちながら、生活のために伝統的な水墨画もこなしたとすれば、画家としての評価に響いたはず。それが美術史的な評価の遅れにつながった可能性もある。
しかし一方で、萬のモダンアートは、先の代表作以外にも《風船をもつ女》にしろ《裸婦(ほお杖の人)》にしろ、日本独特(あるいは東北特有?)の泥臭さが目立ち、それは水墨画との関連で見ていかなければならないかもしれない。特に「水浴」シリーズは素描でも水彩でも版画でも水墨画でも油彩画でも試みられているが、いずれも素材が違うというだけで様式的には大差ない。むしろ初期のころは油彩と水墨を別ものとして描き分けていたのが、相互に影響し合いながら近づいていったといえそうだ。そのへんを水沢勉館長は、「それは二者択一されるべきものではなく、また、そうできるものでもなく、いうならば画家の内部に共生していた」ものであり、それが「萬鐵五郎の創作活動に楕円状の動きをあたえたように思われる」と述べている。たしかにモダンアートだけならわかりやすいが、それだけだとあまりに教科書的すぎてつまらないともいえる。そこに水墨画という異質な要素が介入することで焦点がブレ、モダンアートそのものをも撹乱させる。それが萬の芸術なのだ。と、ここまで書いてふと、これって近代日本の画家の多くにも当てはまるんじゃないかと思ったりして。

2017/07/01(土)(村田真)

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