artscapeレビュー

夕張 石炭博物館

2017年09月15日号

[北海道]

前々から訪れたかった夕張へ。近代の炭鉱産業で栄えた後、国策変更で衰退し、今度は観光に舵をきり、バブル期のポストモダン・テーマパークなどの事業で失敗した。そして財政破綻し、過疎化が加速する地方自治体は、日本の未来を考えるうえで重要だと思われるからだ。北海道のガイド本を調べても、夕張をまったく紹介しておらず、ネット上でしか情報が得られない。実際、めろん城や石炭村は廃止しており、夕張鹿鳴館は休館、図書館、体育館、雪で屋根がつぶれた美術館はすでに稼働停止だった。学校は閉鎖・統合し、あちこちに空き屋と廃墟を見かける風景は、なるほど普通の観光にはならない。そして無人の夕張駅(喫茶店の裏にホームがある)は来年に廃線となるらしい。街はファンタスティック映画祭ゆえ、映画のポスターの絵をちらほら見かけるが、ほとんど人通りはなく、ゴーストタウンのようだ。夕張で目撃した風景は、福島の放射線量が高いエリアを代表とする東北の被災地ともよく似ている。もちろん、自然災害や原発事故が引き起こしたものではないが、行政や民間事業の失敗がこれだけ重なると、人為的な災害というべき結果をもたらし、人口は最盛期の1960年代に比べると、もう1/10以下まで減少している。かろうじて営業していた施設として、石炭博物館が挙げられる。ただし、本館は改装中(?)で入れず、チケットの販売だけを対応し、別棟の模擬坑道のみを見学できる。地下にもぐって炭鉱の空間をリアルに体験するのは面白いが、スタッフがまったくいない(入り口にいると思ったら人形だった)長い地下空間であり、ほかの観光客が全然いない状況で歩くのはけっこう怖い。また幸福の黄色いハンカチ想い出ひろばは、同名のロードムービーのラストシーンのロケ地現場であり、ここは往年のファンがぱらぱらと訪れていた。黄色い手紙が壁中にはられた部屋は、越後妻有などで出会うアート作品のよう。が、1977年の映画を懐かしめるファンはもうすでに高齢化しており、10年、20年後の集客は厳しいかもしれない。最後に夕張で立ち寄った清水沢のダムとそこから眺めた足下の風景、また向かいの旧北炭清水沢火力発電所のカッコいいことに感心させられた。雨が降るなか目撃したせいか、ほとんど映画や物語の世界のようだ。また発電所の背後に、だいぶ古い住宅団地がまるごと残っている。が、一部プレハブ住宅に住み替えが行なわれていた。

写真:上から、教習所、黄色い手紙の部屋、模擬坑道、旧北炭清水沢火力発電所

2017/08/17(木)(五十嵐太郎)

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