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生誕150年記念 藤島武二展

2017年10月15日号

会期:2017/07/23~2017/09/18

練馬区立美術館[東京都]

藤島武二の絵ってどこがいいのかよくわからない。いや別に悪いとは思わないけど、とりたてていいとも思わないし、ずば抜けた個性があるようにも見えない。代表作を挙げろといわれても《黒扇》か《東海旭光》くらいしか思いつかないし、これだってひとつ年上の黒田清輝とどこがどう違うのか説明できない。というか藤島という画家の存在自体、黒田の大きな影に隠れてしまって目立たないのだ。にもかかわらずそれなりに評価されているのが不思議だった。で、この展覧会を見てわかったのは、黒田の下で東京美術学校で後進の指導にあたり、生涯を美術教育に費やしたこと、思いのほか雑誌の挿絵や本の装丁などのグラフィックの仕事が多かったこと。要するに生活のため画業以外のバイトに精を出していたのであり、むしろそれが彼の地位と名声と大衆的な人気を確保したのではないか、ということだ。しかしいくら生活のためとはいえ、画家がバイトにのめり込むのは本末転倒、制作時間は削られるわ情熱や冒険心はそぎ落とされるわロクなことがない。藤島作品に通底するある種のハンパ感はそんなところに起因するのかもしれない。
もうひとつ興味があったのは戦争との関わりだ。藤島は日中戦争が始まった37年にはすでに70歳の重鎮で、その年に第1回文化勲章を受章。その6年後の太平洋戦争中に亡くなっているので、いわゆる戦争画は描かなかったが、戦争に関連した絵は同展にも何点か出ていた。例えば《ロジェストヴェンスキーを見舞う東郷元帥》は制作年は不明だが、日露戦争時の美談をテーマにした戦争画だし、《蘇州河激戦の跡》は日中戦争における戦跡を描いたもの。ほかに、直接戦争を描いたものではないけれど、晩年に宮中学問所のために制作した日の出のシリーズは、昭和前期という時代背景、中国やモンゴルという場所、皇室からの依頼、そしてなにより「日の出」というモチーフから広い意味での戦争画と呼べるかもしれない。《東海旭光》はその代表作といえるものだが、残念ながら《黒扇》ともども今回は出ていない。

2017/09/07(木)(村田真)

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