2017年11月15日号
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artscapeレビュー

小松浩子

2017年11月01日号

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会期:2017/09/09~2017/10/14

gallery αM[東京都]

写真家の小松浩子の個展。工事現場の資材置き場を写したおびただしい数のモノクロ写真を会場の床や壁を埋め尽くすほど展示する作風で知られる写真家である。なかでも2012年に目黒区美術館の区民ギャラリーで開催した「ブロイラースペース時代の彼女の名前」は、広い会場にプリントされた印画紙のロールを張り巡らせた圧巻の展示だった。
今回の個展でも、その才覚はいかんなく発揮されていた。壁という壁がモノクロ写真で埋め尽くされ、それは床にも及んでいるため、来場者はそれらを踏みつけながら鑑賞することを余儀なくされる。文字どおり四方八方にイメージが拡散しているため、正面や中心を設定することは不可能に近い。それゆえ、私たちは特定の写真に視線の焦点を絞ることすらできないまま、まるで宇宙空間を漂うかのように、写真空間の中をあてどなく彷徨うほかないのである。
興味深いのは、そうであるにもかかわらず、いや、だからこそと言うべきか、その夢遊病的な彷徨は結果として「資材置き場」の視覚的なイメージよりも触覚的なイメージを強く感じさせるという点である。瓦礫や鋼材のざらついた質感だけではない。泥を浴びたブルーシートや剥き出しの土までもが、思わず触れたくなるような触覚性を醸し出している。この皮膚感覚を励起させたいがために、小松はこれほどまで執拗に写真空間の密度とボリュームを追究しているのではないか。
物質の触感を写真の平面に焼きつけ、なおかつ空間をそれらの平面で充填することによって、その触覚性を空間の物質面で増強すること。それは、一点の写真作品の芸術性を審美的に(つまり視覚的に)問う写真の規範では計りしれない、小松ならではの方法論である。写真作家としてそれを獲得していることに大きな意味がある。

2017/10/05(木)(福住廉)

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