2017年11月15日号
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artscapeレビュー

柴幸男『わたしが悲しくないのはあなたが遠いから』

2017年11月01日号

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会期:2017/10/07~2017/10/15

東京芸術劇場シアターウェスト[東京都]

ジャンル:パフォーマンス
池袋の東京芸術劇場は、シアターが複数ある。そして、地下一階のシアターイーストとシアターウェストは同じ規模で隣り合っている。本作はこの二つのシアターを同時に使用し、一つの戯曲を上演する。「一つの戯曲」と書いたが、テーマは重なるものの、二つのシアターでは異なるキャストが異なるセリフで上演が行われているらしい(観劇後、F/Tのサイトにて公開されている戯曲を見ると、シアターイースト側とシアターウェスト側に分かれて会話を交わすところ以外は、同一の戯曲だったようだ。そのことは観客は知らない)。それを観客はどちらかのシアターを選んで鑑賞する。両会場をつなぐ扉は頻繁に開き、顔は見えないけれども、反対側から役者が呼びかけあったりするので、向こうで起こっていることをいつも少しだけ意識するような演出が施されている。テーマは「距離」。ぼくが見たシアターウェストでは西子(端田新菜)が誕生の産声をあげるところから物語は始まった。語られるのは、隣人の死の場面。自分の誕生とともに母が死に、小学生のときにウサギが死ぬ。友人は遠方に引っ越してしまい、そこで起こった地震によって瓦礫の下敷きになる。自分は安全に生きている。その周りで大切な人たちが命を奪われてゆく。隣人の死といえども他人の死だ。一定の距離が残って消えない。ここに距離というテーマの発生源がある。西子が隣人と踊る場面では、二人を挟んでひも式のメジャーが伸びていた。「距離」をめぐり、第一部では誕生から思春期までの出会いと別れが描かれ、第二部では母となって息子と旅をし、第三部では目の見えない車椅子の老女となってもう一人の若い頃の自分と対話する。トータルで75分だから、三部のうちどの逸話もとてもコンパクトに整理されていて、走馬灯のごとくスピーディーに展開する。ある場面で、英語字幕に「in the distance, there is no sorrow」と出てきた。もとのセリフはこうではないけれど、要するに「距離があるので、悲しみが存在しない」という意味だ。「悲しくない(からよかった)」とも読めるが、「悲しむことができない(からつらい)」とも読める。人生の機微がコンパクトに描かれるから、エモーショナルな気持ちになりかける。けれども「距離」がそこへ没入するのを妨げる。なんとも不思議な舞台だった。
公式サイト:https://www.ft-wkat.com/
フェスティバル/トーキョー(F/T)17 公式サイト:http://www.festival-tokyo.jp/

2017/10/12(木)(木村覚)

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