artscapeレビュー

ヴィヴィアン・サッセン「Of Mud and Lotus」

2017年11月15日号

会期:2017/10/06~2017/11/25

G/P gallery[東京都]

1972年生まれのオランダの写真家、ヴィヴィアン・サッセンは、ここ10年余りファッション写真の分野でめざましい活動を展開している。日本の若い写真家たちのなかにも、彼女のスタイルを取り入れた写真が目立つようになった。一方で、アート写真の分野でも評価が高まりつつあり、2011年にニューヨーク、国際写真センター(ICP)のインフィニティ・アワードを受賞するなど、注目を集めている。今回のG/P galleryでの個展には、その彼女の新作が並んでいた。タイトルの「Of Mud and Lotus」というのは「泥のないところに蓮は咲かない(泥中の蓮)」という箴言に由来する。「蓮」は妊娠や出産などの女性性の象徴であり、植物や泥、女性の身体などのイメージを組み合わせて、そのことを浮かび上がらせようとしていた。特徴的なのは、コラージュやプリントへのペインティングなどの手法を積極的に使いこなしていることで、これまでの端正なストレート写真とはかなり印象が違う。見方によっては「やり過ぎ」ととられても仕方がないが、逆に自分の世界を打ち壊して、新たにつくり上げていこうとする意欲を強く感じた。インクジェットプリントのクオリティを含めて、その試みが必ずしもうまくいっているとは思えないが、作風をよりアート寄りに変えていこうとしていることがはっきりと見えてきている。個人的には、きのこのイメージが多用されていることが興味深かった。きのこは一晩で生長して胞子を撒き散らし、あっという間に森の中に増殖していく。それ自体が多産性の象徴であるとともに、そのフォルムも女性の身体のまろやかな曲線を想起させる。きのこ好きの僕としては、もっときのこに集中した作品が増えてくると嬉しい。今回の展示を見る限り、期待してもよさそうだ。なお、展覧会にあわせてG/P galleryから同名の写真集が刊行されている。

2017/10/14(土)(飯沢耕太郎)

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